日本には全国津々浦々、その土地ならではの魅力的な観光資源があります。まだ知られていない地域の資源を掘り起こし、多くの人に知ってもらい、地域に足を運ぶ人を増やす… いわゆる「観光客」を呼び込むことで、地域を活性化させようという取り組みが全国各地で行われています。そこで今回は「体験観光による地域活性化」を考えます。
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地域の資源をお金に変える方法
観光アイデア教科書Vol.14では、価値があると広く認められたもの(=メッシのスパイク)を、適切な価格(100万円)で売ることが出来るかについて考えました。結論、自分が手元にメッシのスパイクを持っていても、簡単に100万円で売ることは出来ないという内容です。

自分の知名度がゼロの時は、自分が持っているものが本当にメッシのスパイクであるとを信じてもらえないので、買いたい人に出会えるまで、色んな人に会うしかありません。当然、買いたい人に出会えるまでの経費がかかるので、収益率を高めるには、いかに効率よく、買いたい人に辿り着けるかがポイントになります。

こちらは沖縄本島を流れる、とある川の写真。かなり綺麗な川ですが、全く知られておらず、ここで立ち止まる人はいません。冒頭に述べた「眠っている地域の資源」です。

メッシのスパイクは、説明をしなくても、すでに世界中の人がその価値を知っています。地域の資源の場合、まずはいいものを「見つける」ことが第一ですが、そこから価値を付ける、または価値を見出すという作業が必要です。その際にありがちなのは、そこに住む人は「価値がある」と思っていても、旅行者に全く刺さらないというパターンです。

また、絶景は価値が伝わりやすい資源ですが、地域活性化という点からみると、お金にはなりにくいので注意が必要です。むしろ、あらかじめルール作りをした上で認知を広めていかないと、いきなり人がたくさん来て、路上駐車や迷惑行為、ゴミが増加し、その絶景や雰囲気が失われることになりかねません。

観光で地域を活性化させるためには、地域の資源をお金に変える必要があります。その方法のひとつが、地域資源をを楽しむための手段を提供することです。具体的には体験プログラムや、絶景が見えるカフェなどになります。体験を通じて、文化を知る・学ぶという傾向は広まっています。
「体験」とは何か
じゃらんやアソビューなど、体験に特化した予約サイトを見ると、日本全国の体験商品が並んでいます。

近年の旅行・観光業界でも頻繁に登場する「体験」というワードですが、一般的な商習慣の中で用いられる「体験」とは、少々異なる意味で使われています。
スターバックス体験について
ビジネスモデルナビゲーター(オリヴァー・ガズマン,カロリン・フランケンバーガー,ミハエラ・チック)を参考に、いくつか事例をご紹介します。

一般的な「体験の販売」とは、製品の機能に留まらない、包括的な経験を顧客に提供することです。顧客は体験が含まれることを前提に、より多くの商品をより高い価格で買うようになります。

この本では、スターバックスの例が紹介されています。スターバックスが販売している(=お金を生み出しているもの)のは「コーヒー」です。しかし、多くの人は「コーヒーを飲む」ためではなく、勉強や作業をしたいとき、さらには仕事の話をするときなどにスタバを訪れます。

「スタバ」と聞いたら、コーヒーの味よりもお店の雰囲気を思い浮かべる人が多いと思います。それはスタバがお店の雰囲気を売りにしているからです。これがスターバックスが行っている体験の販売です。会社でも家でもない、サードプレイスとも言われる場所が用意されていますが、お店に入るのにお金はかかりません。スタバの収益源は、あくまで飲食物です。この部分が、旅行・観光業界で扱う「体験」との大きな違いとなっています。
観光・旅行業界の「体験」とは
落ち着いたおしゃれな環境を用意して、コーヒーを淹れるのではなく、お客さん自身にコーヒーを淹れてもらうというのが、旅行・観光業界の体験の考え方となります。

そして、コーヒーの淹れ方を教える料金がかかるため、通常一杯400円のコーヒーが、1000円になったりします。実際、全国各地で郷土料理などを作る体験がありますが、自分で作るよりも、プロの手に任せた方が、確実に美味しいものを食べることが出来ます。これは旅行者にとっては当たり前の感覚ですが、体験を提供する側はその感覚が抜けているのです。だから結局、体験プログラムを作っても、全く申し込みがないという状態になります。

ただし、「体験プログラムを作っても人が来ない」問題については、個人旅行者をターゲットとした場合です。体験プログラムが、修学旅行や団体ツアーに組み込まれれば、人は来るようになります。体験ではありませんが、長崎のハウステンボスは、HISが買収したことでツアーが組まれ、多くの人が訪れるようになりました。

つまり、重要なことは旅行会社の企画担当者や営業マンが魅力的だと思う体験内容であるかどうかです。そのため、「旅行者目線」を考えて様々な分析をして、マーケティング施策を行うことよりも、団体が一度に参加出来るプログラム作りを行うことが優先されます。団体が来ていても、個人客が少ない施設や観光地があるのは、こうした理由です。

また、車で行ける範囲の人たちをターゲットにした、週末の体験イベントの場合も、旅行者ではなく、ターゲットとなる地域に住む人が「楽しそう!」と思える内容であれば、参加者を集めることが出来ます。例えば、埼玉・秩父で「そば打ち体験」をするというイベント立て、西武池袋線沿線でPRをすれば、参加者は集まるものです。実際、飯能市ではそうした形での体験の受け入れが行われています。

しかし、団体旅行は衰退していると言われており、そこに拍車を掛けたのがコロナです。今後団体旅行はますます衰退していくことが確実視されています。これからの体験観光には見直しが必要です。
★参考:ニューツーリズムの時代へ★
地域活性化のための体験商品を考えてみた
ここからは先ほどご紹介した、一般的な商習慣で用いる「体験」のフレームワークに当てはめて、体験観光考えたいと思います。

こちらは令和元年度、沖縄を訪れた観光客の訪問地域を示した表です。空港がある那覇が65%と最も多く、宮古・石垣を合わせると25%… あら、沖縄県外から那覇・宮古・石垣以外への直行便はないはず。残りの10%は何処へ。

それは置いておいて、「南部」を訪れる人が22.2%となっています。那覇に近いにも関わらず、中北部の西海岸や本部半島よりも、足を運ぶ観光客は少ないようです。沖縄南部にも色々な観光資源があります。ここでは、南部を観光で活性化させることを考えてみましょう。

一番下、商品の部分は「沖縄南部」の地域資源となります。ここでは詳しくご紹介しませんが、様々な資源があり、私も以前ご紹介しているので、そちらをご確認ください。なお、この段階ではまだお金になりません。スターバックスでいうと、コーヒー豆(メニューにない状態)です。
★参考:沖縄南部の楽しみ方★

続いては、地域の資源を商品化し、値段を付けてメニューに並べます。先日「沖縄旅行でやりたいこと」について、アンケートを実施しました。この調査に選択肢として登場する30の体験を、沖縄南部で全て楽しむことが出来るように整備したとします。

ここで一旦考えるべきなのは「顧客の世界」です。用意したメニュー(品揃え)を誰に出すかを考えてから、最後にサービスや立地で、顧客への付加価値を付け加えます。沖縄南部へ観光客(個人旅行者)を集客するにあたって、顧客となるのは「那覇にいる観光客」でしょう。

そこで狙うのは「沖縄に着いた日、または出発する日」です。着いた日の午後と出発する日の午前中は、意外と時間を持て余し、とりあえず国際通りをぶらぶらする人も多いのではないでしょうか。沖縄を訪れる観光客の86%がリピーターです。国際通りにも退屈してしまい「那覇に泊まる」「まだ時間ある」「どうしよう、何しよう」という人が必ずいるはず。そうした人をターゲットになる顧客として設定します。
最後に、沖縄南部で楽しめる体験が、那覇で時間を微妙に持て余している観光客にとって魅力的であるように、付加価値を付けて仕上げます。国際通りから沖縄本島最南端「喜屋武岬」までは車で40分程度。つまり、沖縄南部各地には、基本的に那覇から40分以内で行くことが出来ます。

那覇の都会から近いにも関わらず、沖縄南部にはこうした景色が広がります。観光客が少ない地域なので、落ち着いた雰囲気で、古民家など、昔ながらの沖縄らしい景色が残されています。
それでも旅行者は来ない
アクティビティを揃え、ホテルや空港からの送迎も行うなど、旅行者の都合に合うようにメニューを改善し、ひとつの体験商品を完成させたとします。

果たしてこれで観光客が来るのかというと、実際は「来ない」のが観光の難しいところなのです。
今回は例として「スターバックス体験」をご紹介しましたが、スタバはお店を出す場所を選ぶことが出来ます。人通りの多い場所にお店を出しているので、広告が一切無くても、認知を獲得出来ているのです。観光は場所を選べません。人が来ないからお店も出店しない。そんな場所に人を呼ぶ必要があるのです。
ということで、この続き(集客について)は次回。最後までありがとうございました。
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