観光客を集客するためには 旅行者に向けた情報発信を考える|観光アイデア教科書Vol.17

観光アイデアノート

2021年度、観光庁から「地域の観光資源の磨き上げを通じた域内連携促進に向けた実証事業」の公募出ました。全国から243件の事業(自治体や観光協会など)が選定され、最大1500万円の支援金が出されています。しかし、こうした「地域の観光資源の磨き上げ」は以前から行われており、すでに日本全国で地域資源は掘り起こされ、磨き上げ尽くされています。

本来解決すべきは、お金(税金)をかけて作った観光・旅行・体験といった商品が、全く売れていない(=人が来ていない)という課題です。

★前回の記事★

旅行前の情報源について

発掘された地域の資源が、旅行者に知られていないのか、それとも知られた上で魅力的ではないのか…

まずは2018年にJTBが行った、国内旅行の情報収集に関するWEBアンケートの結果を分析し、課題解決のヒントを探ります。

このアンケートでは8つの質問が用意されていますが、まずは旅行前の情報源について。WEBサイトが最も多い一、ガイドブックもまだまだ強力な情報源となっているようです。

前提として、これから旅行に行く人には【旅行先が決まっている or 決まっていない】という2つのパターンがあります。

旅行前に行きたい場所が決まっている

例えば「沖縄に行きたい」と決まっている場合、「沖縄でどこに行こう、何しよう」を調べることとなります。

旅行前の情報源として「観光協会」という回答がありますが、これはすでに旅行先が決まっている人が頼る情報源と言えるでしょう。Webサイトで「沖縄 おすすめ」と検索したり、沖縄特集のガイドブックを買ったり、旅行先が決まっている場合は、情報を探す手段が色々とあります。

では、そもそも何で「沖縄に行きたい」となるのでしょうか。

旅行者は、自分の頭の中にある各地のイメージを比較して、旅行先を選んでいます。全国の地理に詳しい人は、そう多くありません。旅行者の頭の中で「○○なら××(場所)」というイメージが出てくる場所は限られています。その結果、有名な観光地ばかりに観光客が訪れることとなります。

沖縄の場合、「綺麗な海が見たい」「暖かい場所に行きたい」「異文化を感じたい」など、沖縄に行ったことがなくても、沖縄に対する『イメージ』が確立しているため、旅行先として選ばれるのです。

無名の地域が旅行先になるためには

しかし、これから地域資源を磨いて、観光を活性化させようとする地域の多くは無名です。よっぽどの理由がない限り、旅行先に選ばれることはありません…それならば、理由を作ればいいのです。

約束を取り付ける

【約束】によっても旅行先は決定されます。

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代表例が帰省です。「また来年も来るね」という約束が旅行のきっかけとなっているので、その場所の知名度は関係がありません。帰省だけでなく、同じ場所にもう一度訪れることも、地元の人だけでなく、「もう一度訪れたい」という自分との約束を果たすことになります。

旅行イベントや物産展などで、「今度行きますね」という会話を交わすのも、約束を生むきっかけとなり、旅行先の候補に入ってきます。有名ではない地域が観光客を呼び込む場合、観光客と直接会話出来る場に出て、出来るだけ多くの約束を取り付けるのも、ひとつの手段です。

ファンによる聖地巡礼・収集

テレビや映画、CM、アニメなどの影響で有名になる場所もあります。

番組やアニメ、タレントなどのファンは、「聖地巡礼」として、無名の場所にも足を運びます。制作会社やフィルムオフィスへの営業も、地域への誘客に繋がるかもしれません。

GLAYEXPO Walker TOHOKU61805-70 (ウォーカームック) | |本 | 通販 ...

地域の宣伝に有名人を使うという方法もあります。こちらは2014年に販売された「GLAY EXPO Walker TOHOKU」という雑誌。GLAYが宮城県ひとめぼれスタジアムで5万人規模のライブを行うのに先立って販売されました。雑誌では、GLAYメンバーおすすめのスポットやグルメが紹介されています。

「有名」「アクセスがいい」「楽しそう」というよりも、「メンバーが紹介していたから」という理由で、GLAYファンが足を運ぶようになります。沖縄では古宇利島がその代表例です。嵐が出演するCMのロケ地として人が訪れるようになり、今では沖縄を代表する観光地となりました。

また、最近よく見られる御朱印やスタンプラリーなども、無名の地域に人が訪れるきっかけとなっています。ただこれは、ひとつの地域内にスタンプなどを設置しても意味がなく、日本全国という規模感での取り組みでなければ、効果は低いです。

SNS・ブログで高頻度の情報発信

一方で、ブログやSNSで日々面白い発信をすることは、直接の集客に繋がる可能性があります。

読者やフォロワーが増えて、ネットニュースになり、そこから「ネットで話題」とテレビで放送されれば大成功です。

こちらはナウル共和国政府観光局の公式Twitterアカウント。2019年のナウル共和国への日本人観光客数は3名と言われており、日本人にとって無名の国と言えるでしょう。しかし、フォロワーは2021年10月末の時点で26万人超え。ツイートを見てナウルに興味を持ち、「いつか行ってみたい」という日本人も増えたはず。情報発信において、その場所の知名度は関係ありません。

ホームページは旅行者が目的地を決める決め手(直接の集客手段)にはなりません。ホームページは、すでにそこへ行く意思のある人が、情報を確認するために見るものです。いわば、ホームページは情報を求める人の受け皿となります。地域の宣伝をする前に準備しておくことが必須と言えるでしょう。

マニアックな趣味

これは聖地巡礼に少し近い発想です。

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「野生のイルカと泳ぐ」という夢を持っている人がいるとします。日本で野生のイルカと泳ぐことが出来る場所は限られているので、それがそのまま旅行理由となります。

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沖縄であればダイビングでしょうか。沖縄の海でしか見られない魚や地形を求めて、沖縄へ訪れる人も多いはずです。こうした方法で人を呼ぶ場合、特定のジャンルに絞って、その地域の特徴(他と何が違うのか)を洗い出すことが必要なので、

旅行前に行きたい場所が決まっていない

「休みが取れたからどこかへ行きたい」という場合は、どのように旅行先が決まるでしょうか。

旅行前の情報源としては、Webサイトを利用する人が最も多いです。旅行先が決まっていない人は、以下のような検索ワードで情報を調べると考えられます。

「国内旅行 冬 おすすめ」
「ファミリー 人気 施設」
「関東 日帰り 紅葉」

こうして出てきた記事を参考に旅行先が決定されます。Webサイトを運営している会社にとっては、検索の結果、サイトが上位に出てくることが重要です。そのためには【どのような記事が上位に出てくるか(SEO)】を分析した上で、記事を作成する必要があります。

その結果、検索結果には同じような場所が紹介された記事が並びます。Webサイトを運営している会社にとって、知名度の低い場所を紹介するメリットはありません。ウェブサイトからの検索で、知名度の低い場所が旅行先に選ばれる可能性は低いです。

旅行前の情報源としてのガイドブックとは、本屋で売っている旅行雑誌のことでしょう。どこの本屋さんでも、上の写真のように、旅行雑誌が並ぶコーナーがあります。旅行先が決まっていないとき、ふらっとこうした場所を訪れて旅行先が決まることがあると思います。旅行雑誌には、掲載料を支払うことで広告を載せることが出来るので、集客に繋がる可能性はあります。

旅行会社に相談をしたり、店頭に並ぶパンフレットの中から旅行先を選ぶ人もいます。こちらは沖縄県の令和元年度観光統計実態調査の結果です。旅行会社のパンフレットやWebサイトを参考にしている人が、SNSよりも多くなっています。

また、同じ調査では【個人旅行】が57.9%、残りは【団体旅行】【パッケージ旅行】【フリープラン】といった、旅行会社経由で手配された旅行形態となっています。このことから、旅行会社への営業も重要であると分かります。旅行会社もパンフレットやWebの情報を更新しなくては、顧客に飽きられてしまうため、常に新ネタを探しています。

旅行中に求められる情報源

では、旅行をしている人には、どういった情報が求められているのでしょうか。

こちらがその結果です。「観光地・観光スポット」の情報を探している人が多いと分かります。それに続くのが「食事場所」「アクセス」です。

こちらは、旅先で得た情報が、どこの都道府県を訪れた時に役立ったかという質問の回答です。「北海道」「沖縄」「京都」「東京」が上位を占めており、旅行先として人気がある観光地と比例していることが読み取れます。

先に述べた通り、旅行先として人気がある観光地は、旅行者の頭の中で「○○なら××(場所)」というイメージがしやすいです。そして旅行者は、想像したイメージを消費することで満足感を得ています。そのため沖縄旅行に行くにしても、レンタカーを借りて海を見ることが出来れば良く、綿密な計画は立てていない人が多いため、旅先で観光地などを探す人が多いと考えられます。

★参考:沖縄旅行の主流はレンタカー★

こちらは旅行中の情報源です。「Webサイト」「ガイドブック」「ホテルフロント」「観光案内所」から情報を得ている人が多いです。

旅行先で観光地を探す場合、以下のような検索ワードが考えられます。

「沖縄本島 おすすめ」
「空港 近く 暇つぶし」
「美ら海水族館 周辺 ランチ」

しかし、前述した通り、人気のワードはSEO対策がされているため、検索結果には似たようなスポットが並ぶこととなります。

また、旅行前も旅行中も、口コミによる評価は重要な指標です。安くはないお金を払って、限られた時間の中で旅行をしている人がほとんど。「失敗したくない」と思うのは当然のことです。どれだけ宣伝がされている場所でも、口コミ評価が低ければ、訪れるのをためらう人もいます。

★参考:口コミ記事は結構読まれています★

ただ、口コミが低いことよりも最悪なのは、口コミがなく、情報発信もないことです。訪れている人が少ないだけでなく、営業しているか分からないという印象を旅行者に与えます。ある意味「穴場」といえるかもしれませんが、今の時代、素敵な穴場はネットで紹介されている場合がほとんどです。

とは言っても、これから新しく観光をやる事業者や地域には口コミがありません。その場合は「新しい」ということを、しっかりと発信しアピールする必要があります。

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旅行先に旅行雑誌を持っていく人もいると思いますが、ここでいうガイドブックは「パンフレット」になるでしょう。ホテルや観光施設には、様々なパンフレットが置かれています。そうした紙媒体から情報を得ている人も、未だ多いです。ネットの力が強いからこそ、「ネットで紹介されていない場所(=穴場)」を求める人が一定数いると考えられます。

しかし、ずらっと並んだパンフレットの中から、旅行者に選んでもらうには、表紙、特に棚に入れられた時にも見える表紙上部のデザインが重要となってきます。

観光案内所やホテルの方と関係を築くことも、誘客につながる可能性があります。旅行者に「おすすめの場所」を聞かれたときも、スタッフの方は紙のパンフレットを使う場合が多いです。

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ただ、旅行者が観光案内所やホテルのフロントで得たい情報は、近くのおすすめや、目的地までのアクセスが中心と考えられます。「地元の人の口コミ」という強さはありますが、そもそも観光案内所やホテルフロントで、少し離れたおすすめの場所を聞く人は少ないでしょう。

アクティビティや体験を探す人は少ない

旅先で得る情報で「宿泊施設」があることも驚き(宿を決めないで旅行をしている人がいる)ですが、それよりも「アクティビティ・体験プログラム」を探す人が少ないという結果が出ています。

旅行先でアクティビティの情報を探している人がゼロではありません。しかし、アクティビティ・体験は事前に予約をする場合がほとんどで、水着などの備品が必要な場合もあります。より多くの人を集客するには、旅行前の旅行者に体験の情報を届けなければなりません。

また、ぽつぽつと予約が入っても、あまりお金には繋がりません。1回5000円の体験に毎日5人来たとしたら、5000円×5人×30日=1か月75万円。アウトドアの体験の場合、1日も雨が降らず、休みなく営業をしてもこの金額にしかなりません。「発掘された地域の資源が、旅行者に知られていないこと」だけでなく、事業として継続するための、受け入れの仕組みが設計されていないという点も問題です。

例えば、小笠原諸島で行われている海のツアーは、どの業者も1日1万円以上となっています。定員も多くて30名程度。ツアーの内容は、業者によってそれほど変わらないので、人気の業者から順に予約が埋まります。船の運航スケジュール上、1日ツアーを実施出来るのは月10回程度ですが、30人×1万円×10日=月300万円となります。

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こうした仕組みが成り立つのは、小笠原にはツアーに参加しないと楽しめない自然資源が多く、旅行者の8割がツアーに参加し、業者間の連携も取れている(ルールが決まっている)からだと考えられます。ツアーの空き状況は観光協会のHPで確認出来たり、事業者も店先に空き状況を掲示したりしているので、直前でも予約がしやすくなっています。

★参考:海のツアー★

土日だけ1万円の体験を実施して、毎回30人を集客することが出来れば、1万円×30人×8日=月240万円となります。こうした仕組みを説明するのは簡単ですが、結局、毎回30人をいかに集客し、受け入れるかを考えなくてはなりません。

ちなみに、予約や備品を必要とせず、大人数が一斉にいつでも楽しめるのがテーマパークや水族館、博物館など、施設型観光地の強みです。

情報が足りず困っている人は少ない

せっかくなので、アンケートの残りの項目も見ていきましょう。

こちらは、あなたが大事にしている「旅先のこだわり」は何ですかという質問の答え。グルメが圧倒的に人気となっています。旅先でコンビニ飯を食べている私にとっては、理解しがたい結果となっています(笑)

旅先で情報が足りずに困ったことはありますか?という質問に対し、「旅先で情報が足りずに困ったことはない」と答えた方が約6割となっています。旅先で必要な情報は、その場で手に入れることが出来ているようです。一方で、困った人は、どんな情報が無くて困ったのでしょうか。

「食事場所の情報」「交通手段における情報」が足りなくて困ったとの回答が多くなっています。観光地や体験の情報が足りなくて困ったというのは、項目としても用意されていません。

旅先で情報が足りずに困った際には、「Webサイト」や「ホテルフロント」から情報を得て、解決された方が多いようです。この2つの情報源、そして観光案内所はやはり、目的が明確な場合に頼る手段と言えるでしょう。

まとめ

今回は、お金をかけて作った観光・旅行・体験といった商品が、旅行者に知られておらず、全く売れていない(=人が来ていない)という課題から、じゃあどうやったら知られて売れるのかを検討しました。

地域の資源は磨き上げられたまま、放置されていたり、磨き方が間違っていパターンが非常に多いです。しかし、次に出てくる課題は、情報を届ける手段は色々あっても、なかなか人が来ないのが現実です。

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今回はここまで。本日もありがとうございました。

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