日本版アドベンチャーツーリズムの可能性。小笠原諸島の事例をご紹介 ~観光アイデア教科書 Vol.5~

観光アイデアノート

「ワーケーションの次に来る旅行形態は何か…」

それを考えたとき、コロナ前から注目を集めていた新たな旅行スタイルがあります。「アドベンチャーツーリズム(AT)」です。日本ではまだあまり注目されておらず、事例も少ないですが、海外では主流の旅行スタイルになりつつあります。

★ワーケーションについて★

2018年には「日本アドベンチャーツーリズム協議会」が設立されました。 経済効果による地域活性化も期待されることから、今後日本でもアドベンチャーツーリズムが推進されていくと見込まれます。

そこで今回は、小笠原諸島の事例をご紹介しながら、「日本版アドベンチャーツーリズムの可能性」を考えていきます。

アドベンチャーツーリズムとは

アドベンチャーツーリズムとは『アクティビティ、自然、文化体験の3要素のうち、2つ以上で構成される旅行(Adventure Travel Trade Associationによる定義)』と定義される旅行スタイルです。

「アクティビティ」「自然」という2つの要素は従来の「エコツーリズム」や「グリーンツーリズム」にも関わりますが、ATの場合はプログラムの中に「文化」という要素が加わるのがポイントです。

日本アドベンチャーツーリズム協議会では、以下のような図を用いて「アドベンチャーツーリズム」「エコツーリズム」「グリーンツーリズム」の違いが説明されています。

大きな違いはATがもたらすその経済効果です。1万米ドルを地域経済にもたらすために必要な旅行者数はクルーズ旅行が100人だとすると、AT旅行者は4人ともいわれています。

高い経済効果をもたらす背景にあるのは、AT商品の特徴である高付加価値の商品です。ATの体験プログラムは「長時間×価格が高い」です。さらに、登山・トレッキングのように、専用の道具が必要になる場合もあります。

アドベンチャーツーリズムの先進地であるニュージーランドで行われているATプログラムをご紹介します。

Milford Sound Escape 'Marino' Trip
See Milford Sound with Active Adventures over two action-packed days.

こちらのツアーでは「穏やかな・静かな」を意味するマオリ語のMarinoをテーマに、ミルフォードサウンドの大自然を2日間かけて、クルーズ・カヤック・ハイキングで体験するという内容。料金も1099(約11万円)ドルと、日本の体験プログラムに比べてかなり高額です。

北米・欧州・南米といった主要地域では、こうした旅行スタイルの市場の成長率も高くなっているのです。

しかし、これは海外の市場の話です。ATの客層は高学歴の富裕層で平均年齢は35歳。平均14日間の長期滞在をする傾向があるそうですが、果たして日本はどうでしょうか。日本の市場規模は未知といってもいいかもしれません。むしろ「厳しい」と考える方が多いのではないでしょうか。

日本におけるアドベンチャーツーリズム

日本では北海道で進んだ取り組みが行われており、特に道東ではアイヌをテーマにしたATが展開されています。2021年には体験型観光の世界会議「アドベンチャー・トラベル・ワールド・サミット(ATWS)」の札幌開催も決定しています。

★参考★
http://inbound-jp.info/wp-content/uploads/2017/02/4b38256f1babcc5965b549355c0036a2.pdf

ただ、経済産業省や国土交通省が出している資料を見ると、ATのターゲットは「インバウンド×ラグジュアリー」となっており、日本人旅行者向けの商品にはなっていません

繰り返しになりますが、海外のATの客層を考えると、日本の30代で仮にお金はあっても、14日間もの休みを取ることが難しいです。

★参考資料★
https://atjapan.org/pdf/GCC2-1report_Chapter3_2.pdf(国土交通省)
https://www.hkd.meti.go.jp/hokim/20180522/all.pdf (経済産業省)

こうした一般論から「日本でATは難しい」と判断されがちですが、果たしてそうでしょうか。今の日本人は、体験を「旅行の合間に」というスタイルから、日本の体験プログラムは「短時間」で「安い」商品が主流となっています。

一方で体験が旅行の目的になっている場合もあります。

例えば、屋久島の縄文杉トレッキング。まず屋久島へは鹿児島市内からの飛行機か高速船で行くのが一般的です。東京や大阪など、大消費地からの直行便はないので、島に行くにはお金も時間もかかります。

そして、縄文杉を見に行くためには早朝から丸1日歩く必要があります。さらに、ガイドツアーも1万円以上するものがほとんどです。それでも多くの人が「縄文杉」を見るために屋久島を訪れて、ガイドツアーに参加します。屋久島に行くついでに縄文杉を見に行く人は少ないのではないでしょうか。

結果として、屋久島では「ガイド」がひとつの産業として成り立っています。

★参考★
https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/3/33118/20141016192512234208/StudiesInEnvironmentalSciences_6_65.pdf

屋久島の場合は「エコツーリズム」の要素が強いですが、「ここでしか出来ない」体験プログラムには、日本人でもわざわざ休みを取って、高いお金を払って、辺鄙な場所まで足を運ぶのです。

こうした体験プログラムに、文化的要素を組み込んだものであれば「日本版アドベンチャーツーリズム」として、日本人をターゲットにした場合でも、経済効果の高い旅行を提供できる可能性が高いです。

小笠原諸島とアドベンチャーツーリズム

「体験のために辺鄙な場所まで旅行者が足を運ぶ」という事例として小笠原諸島があります。

小笠原諸島は、アクセスが片道24時間かつ6日に1便運航される定期船に限定されていることから、5泊6日(うち船内2泊、島3泊)という旅行スタイルが一般的です。

小笠原諸島は、陸や海の多くが国立公園に指定されており、自然保護の観点から立ち入りに「ガイドの同行」が必要なエリアが多いです。

そのため、島ではガイド付きのツアーが盛んで、小笠原の観光マーケティング調査(2016)によると、島を訪れる旅行者の8割以上が何らかの体験に参加しているという調査結果が出ています。

海域でも陸域でもツアーのほとんどが「1日ツアー」または「半日ツアー」で、1日ツアーの単価は1万円前後。旅行者1人当たりの体験にかける消費額の平均を見ると、2万5千円前後で推移しています。

ツアーの種類も豊富にあるため、旅行者は自分の嗜好に合わせて、滞在中の体験を組み合わせて楽しむことが出来ます。また、3泊を基本的に同じ宿で過ごすことから、宿での料理や島の人との交流、盛大なお見送りなどを通じて、滞在中に島の文化にも触れることが出きます。

島民のほとんどが移住者という特殊な事情もあり、「外から視点」で地域の良さが伝えられているというのもポイントです。

小笠原の旅行者には「年休を小笠原に行くために調整した」という人や、「小笠原に行くために仕事を辞めた」という人もいます。また、長期滞在をするリピーターも多く、繁忙期には船のチケットや宿泊予約の争奪戦が発生するほどです。

参考

日本でも、旅行者にとって価値のあるATプログラムであれば、受け入れられる可能性は十分にあり、実際に小笠原諸島では、旅行者一人当たりの観光消費額が沖縄のおよそ2倍の15万円(船台含む・2016年)となっています。

まとめ:日本版アドベンチャーツーリズムのかたち

沖縄に訪れる旅行者の平均滞在日数を見ると多くても「3泊4日」です。つまり、休みが取りにくいと言われる日本人でも、4日間は休みが取れるのです。

また小笠原諸島のように、その場所に行く(体験をする)ために休みを取って、高いお金を出す人もいます。長らく課題とされていた長期滞在も「ワーケション」の推進によって、増えてくる可能性があります。

1日で完結する1万円程度の体験が、地域で複数用意されており、1日目は「カヤックで海を巡る体験」、2日目は「昔ながらの集落を歩くツアー」など、旅行者が滞在中に体験を組み合わせて楽しめる形であれば、日本版アドベンチャーツーリズムとして受け入れられるはずです。

単に自然を体験するプログラムであれば、他と比較されがちです。そこでプログラムに「地域文化」という要素を取り入れ、『その地域でしかできない体験』かつ『旅行者視点で魅力的』なプログラムを作ることが出来れば、単価の高い体験を日本人旅行者に届けることが出来ます。

~終わり~

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