沖縄の亜熱帯海洋性気候とは何か 地理学的に気候帯を分析する|観光アイデア教科書 Vol.24

観光アイデアノート

東京から約3時間。飛行機の進行方向左手にやんばるの森が見えるようになり、その数分後には本部半島の上空を通過。そして間もなく、飛行機は那覇空港へ着陸します。

空港の外へ出ると、温かく湿った空気が、南の島に来たことを感じさせてくれます。那覇空港の緯度は北緯26度。一般的に沖縄は【亜熱帯】と言われています。

沖縄は亜熱帯海洋性気候なのか

国(気象庁など)や沖縄県から出ている資料では、「沖縄は亜熱帯海洋性気候である」と紹介されることが多いです。

また、奄美群島や小笠原諸島も同じく、亜熱帯海洋性気候と言われています。それでは、亜熱帯海洋性気候は、本州などの気候とどのような違いや特徴があるのでしょうか。

ケッペンの気候区分

地球の気候は、高校の地理の授業でも登場する、「ケッペンの気候区分」を用いて語られることが多いです。ケッペンの気候区分では、植生と気温によって、世界が大きくA(熱帯)・B(乾燥帯)・C(温帯)・D(冷帯)・E(寒帯)に分けられています。

渡名喜島にて

そこからさらに、降水量や雨季・乾季の有無などによって、細かく分類されます。しかし、ケッペンの気候区分には、「亜熱帯」がありません。

ケッペンの気候区分的に当てはめると…

気象庁のデータをもとに、2015年以降の那覇の月別降水量と最寒月平均気温(1年間で一番寒かった月の平均気温)をまとめたのが以下の表です。

2015年から2018年と2021年は、最寒月平均気温が18度未満となっています。この場合、沖縄(那覇)の気候区分は温帯の【温暖湿潤気候】。一方、2019年と2020年の最寒月平均気温は18度以上。そしてこの2年間の最小雨月雨量は60mm以下なので、熱帯の【モンスーン気候】となります。

こちらは那覇より南、石垣島の月別降水量と最寒月平均気温をまとめた表です。熱帯のモンスーン気候となる年が多いですが、2021年は温暖湿潤気候です。

これ、沖縄本島の景色です。

ケッペンの気候区分に当てはめると、沖縄は年によって気候帯が変わるため、「○○気候である」と明言することは出来ないことが分かりました。

奄美・小笠原の気候区分

沖縄と同じく「亜熱帯海洋性気候」と言われる奄美・小笠原はどうでしょうか。

こちらは、奄美大島・名瀬の月別降水量と最寒月平均気温をまとめた表です。2015年以降、最寒月平均気温が18度を超えた年はないため、温暖湿潤気候と言えるでしょう。

奄美大島・住用川

一方で、雨が多く、2015年と2017年以外の年は、最小雨月雨量が60mmを超えており、もう少し最寒月平均気温が高ければ、熱帯雨林気候の条件に該当します。

こちらは、小笠原諸島・父島の月別降水量と最寒月平均気温をまとめた表です。 那覇や石垣島と同じく、年によってモンスーン気候または温暖湿潤気候となっています。ただ、降水量は少なめです。

生物地理学的には東洋区(熱帯と同じ)

ここまではケッペンの気候区分に基づいて「沖縄は亜熱帯なのか」を検証してきましたが、ケッペン以外からの見方もあります

生物地理学では、動物相や植物相の違いから、地球の陸域を8つに区分します。WWF Living Planet Report 2008の地図を見ると、日本の大部分は「旧北区」に属していますが、九州の南端に線が引かれ、トカラ・奄美・沖縄は「東洋区」、小笠原諸島は「オセアニア区」に区分されています。

こちらは、トカラ列島・悪石島から小宝島へ向かう船から撮った写真。悪石島と小宝島の間の水深は1000mにもなり、ここが旧北区と東洋区の境界線とされています。

この境界線は「渡瀬線」と呼ばれ、小宝島より南にスギ花粉はなく、ニホンザルもいません。小宝島にはハブがいますが、悪石島より北にはハブがいません。

生物学的には、小宝島以南は赤道が通るフィリピンやインドネシアと同じ区分となるため、熱帯地域と言えるかもしれません。また、小笠原諸島は日本で唯一、ハワイなどと同じ「オセアニア」です。ここでも「亜熱帯」という言葉が登場することはありません。

海洋性気候とは何か

続いては、亜熱帯海洋性気候の「海洋性気候」の部分について。

ケッペンの気候区分にも「Cfb:西岸海洋生気候」がありますが、海洋性の特徴は「気温差が小さい」ことです。

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水(海)は、石(地面)に比べて、温まりにくく冷めにくいという性質があります。これは、私たちの日常生活の中でも感じられることです。夏のビーチへ遊びに行くと、砂浜の上は灼熱地獄ですが、数m先の海に入ってしまえば、水の冷たさを感じることが出来ます。

一方で、少し曇ったり、雨が降ったりするだけで、素足でも普通にビーチを歩けるようになります。このとき、海の水が急に冷たくなることはありません。

普段、私たちが感じている気温は「空気の温度」です。空気は、太陽の日差しによる熱をほとんど吸収せず、海や地面から熱を受け取ります。言い換えると、私たちが感じる気温は、海や地面の熱を受け取った空気の温度なのです。

海に近い場所は、海の熱を受けた空気が、風などを通じて循環している一方で、内陸は風も少なく、地面の熱を受けた空気が滞留します。

これは熱せられた時だけでなく、冷やされた時も同じです。冬になると、日本は太陽の出ている時間が短くなるとともに、太陽の日差しの量が少なくなります。地面は熱を失い、やがて空気も冷やされます。

ちなみに、太陽の日差しで地球が温められるのと同じように、冬は地球が何かに冷やされるから寒い…というわけではありません。基本的に地球は極寒の惑星で、太陽が無ければ、丸ごと凍ってしまうとも言われています。

日本各地の年較差をまとめてみた

こちらは、日本各地の気温をまとめた表です。1991年から2020年の8月の最高気温の平均と、1月の最低気温の平均から、最も暑い月と最も寒い月の気温差(年較差)を比べると、やはり内陸で、山に囲まれた、甲府・長野は、年間の気温差が大きいことが分かります。

那覇、そして小笠原諸島・父島は、他の地点に比べ、圧倒的に気温差(年較差)が小さく、まさに「海洋性気候」となっています。

地理学的な沖縄の気候

沖縄のコーヒー農園

亜熱帯海洋性気候と言われる沖縄ですが、ケッペンの気候区分的には「亜熱帯」という気候帯が存在しません。

  • 気候区分的にはAmまたはCfa気候
  • 年間の気温差が小さい海洋性気候
  • +@ 生物地理学的には東洋区(熱帯)

というのが、教科書的な沖縄の気候区分と言えるでしょう。

「亜熱帯」は、南国を想起させる、マーケティング用語なのかもしれません。分かりやすさが大事で、そこに厳密さは求められていないのです。

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今回はここまで。本日もありがとうございました。

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