ブログをご覧いただきありがとうございます。
今回は「2022年 与路島・請島旅行記」その10をお届けします。
★前回の記事は こちら ★
雷が鳴らない積乱雲の正体
2022年8月14日の朝5時、奄美大島・名瀬港へやって来ました。

この日の目的地は沖縄・那覇。フェリー波之上でおよそ13時間の船旅です。
■ 参考:フェリー波之上 船内の様子

5時50分、奄美大島・名瀬港を出港。

太陽が昇って来ました。天気が良さそうなので、しばらくデッキで海を眺めて過ごすことに。

気象庁のホームページでは「入道雲も積乱雲です」と紹介されています。入道雲の見た目をした雲も出ていますが、雷が鳴っていないので、見えている雲は入道雲でも積乱雲でもなく、積雲という扱いになるのでしょう。

それから約1時間、船はまだ奄美大島の横を航行中。写真の中央やや右をよく見ると、小さな雲の下に雨が降り、まるで雲と海を繋ぐ柱のようになっています。これを「雨柱」いい、遠くから局地的な強い雨を見たときに見られるそうです。雨が降る前は、もう少しサイズの大きな雲だったのでしょう。
■ 参考:1

前方にうっすらと見えているのが、この船の次の寄港地・徳之島。

一方、左舷側はいつの間にか大雨です。ただ、私の上空に雨は降っておらず、雷も鳴っていないので、積乱雲ではありません。果たしてこの雲の正体は…
雲が発達する仕組み
気化熱と凝結熱
液体は気体に変化する際、周囲の熱を吸収する性質を持っています。

暑い日に打ち水をして涼しく感じられるのは、地面に撒かれた水が地表の熱を吸収しながら蒸発しているから。人間の汗(=液体)も、身体表面の熱を吸収しながら蒸発し、体温を下げる役割を果たしています。このように、液体が気化する際に吸収される熱エネルギーが「気化熱」です。

逆に気体が液体に変化する際は、気化熱に相当する量の熱が放出され、この熱エネルギーを「凝結熱」といいます。前回の内容をおさらいすると、空気中に含まれる大量の水蒸気が上昇気流で上空へ運ばれ、そこで冷やされて出来た小さな水滴または氷の粒の集合体が「雲」。つまり、雲が発生する際は、水蒸気から凝結熱が放出されているのです。
空気と大気の逓減率

高度(高度)が上がるにつれて、気温が下がっていく割合を気温逓減率といい、大きく以下の3パターンに分類されます。
- 飽和していない空気が上昇する際の乾燥断熱減率 → 0.976℃(約1℃)/100m
- 飽和した空気が上昇する際の湿潤断熱減率 → 0.5〜0.7℃/100m
- 周囲の大気の逓減率 → 地理の教科書では0.55℃/100m、理科の教科書では0.65℃/100m
乾燥断熱減率と湿潤断熱減率は、地上にある空気の塊が上昇した場合に用いられる基準。一方で「周囲の大気の逓減率」は、簡単に言うと「高度(標高)ごとの気温差」です。
■ 参考:2

例えば、東京スカイツリー(高さ634m)の場合…
- 頂上付近は地上よりも気温が約4℃低い → 大気の逓減率
- 上昇気流によって、地上付近の飽和していない空気の塊が上昇する
→乾燥断熱減率に基づき、頂上付近で空気の塊の温度は約6℃下がる - 上昇気流によって、地上付近の飽和している空気の塊(=湿度100%)が上昇する
→湿潤断熱減率に基づき、頂上付近で空気の塊の温度は約3℃~4℃下がる

TRANCE CATという計算サイトをもとに、気温と湿度から露点温度(雲が出来る温度)計算し、まとめた表がこちら。湿度80%の乾燥した空気は、高度300m~400mまで上昇すると露点に達し、雲が発生することとなります。つまり、上昇した空気の湿度が高いほど、雲の底は低くなるのです。

乾燥断熱減率、湿潤断熱減率、周囲の大気の逓減率の関係を整理したのが上の図。気温25度・湿度80%の空気が上昇気流によって持ち上げられた場合、乾燥断熱減率と飽和水蒸気量に基づき、高度400m付近で雲が発生します。

雲が発生した=空気は飽和した状態ということで、ここから先は湿潤断熱減率に基づき、空気の温度は100m上昇する毎に0.5〜0.7℃ずつ低下。やがて上昇する空気の温度と周りの大気の温度が同じになります。この高度が「自由対流高度」です。

自由対流高度よりも上では、上昇した空気の温度が周囲の大気よりも高くなります(暖かい=軽い)。その結果、上昇気流が無くても空気は上昇。上昇に伴って放出される凝結熱は、その周りの空気も暖めて軽くし、上昇気流を強めるため、雲を発達させるエネルギー源となるのです。

また、上空に寒気が流れ込んだ場合も、上昇した空気は周囲の空気に比べて暖かく軽いため、さらに上昇を続け、発達した雲となります。これがいわゆる「大気が不安定な状態」で、地上と上空の気温差が大きいほど不安定になるそうです。
■ 参考:3
積乱雲で雷が発生する理由

高度が上がり気温が下がるにつれて、水蒸気を含んだ空気の形態は『液体(雲粒)→固体(氷晶)』へと変化していきますが、0℃の以下になっても雲粒(=液体)のままである「過冷却雲粒」が存在します。これは、水を静かにゆっくり冷やしていくと、0℃以下になっても凍らない「過冷却」という性質によるものです。

氷晶は発達した雲の中で入り乱れている強い上昇気流と下降気流によって上下運動を繰り返し、雲の中にある雲粒や周囲の氷晶と合体することで成長。やがて、ある程度の大きさになると、上昇気流よりも落下速度の方が大きくなり、氷の粒のまま地面に降って来ます。
■ 参考:4

こうした過程で、あられや氷晶が擦れあうと静電気が起こり、これが雷発生のきっかけとなるそうです。気象庁のホームページで、雷は以下のように紹介されています。
- 雷は上空高くまで発達した積乱雲で発生する放電現象
- 雲と地上の間で発生する放電を対地放電(落雷)という
- 雲の中や雲と雲の間などで発生する放電を雲放電という
- 放電する際に発生する音が「雷鳴」、光が「電光」
ということは、積乱雲並みに発達しながらも、雷が鳴っていないこの雲では、まだ氷晶が発生していないということになるでしょう。
暖かい雨が降っている?
しかし、雨柱は見えているので、雲の下は大雨のはず… 恐らくこの雨は「暖かい雨」であると考えられます。

暖かい雨は0℃以上の雲の中で作られる雨です。海のしぶきに含まれる塩の粒子と、海から供給される水蒸気をたっぷり含んだ空気が上昇すると、塩の粒子を核とした雲粒が作られます。塩の粒子は大きいため、雲粒も大きくなり氷晶となる高度へ達する前に落下。雲の中の雲粒と衝突・合体しながら、雨粒の大きさに成長し、地表に降って来るそうです。
■ 参考:5

前回の記事で、「日本では上空で冷やされた氷晶が、雨や雪として降ってきている」とご紹介しました。しかし、どうやら東京でも暖かい雨は降っているようです。東京よりも暖かい地域かつ、夏の海上で発生した水分たっぷりの雲から、暖かい雨が降るのは不思議なことではありません。
■ 参考:6
この雲は雷が鳴っていないので、積乱雲とは呼べず、雷が鳴らない理由も何となく推察出来ました。ただ、鹿児島県はやはり雷が多いようです。雷(らい)ぶらりで公開されている、2018年から2023年の都道府県別年間落雷日数で、鹿児島県の平均順位は2位。ちなみに1位は新潟県、3位は北海道です。

【雷ぶらり(株式会社フランクリン・ジャパン運営)より】
鹿児島県で雷が多い明確な理由は紹介されていませんが、「黒潮」の影響があるのかもしれません。沖縄県~鹿児島県の落雷頻度は、東シナ海側に偏っており、これは黒潮の流路と一致します。黒潮が運ぶ南方の暖かく湿った空気と、本州付近から運ばれる上空の冷たいが、発達した積乱雲を発生させるのでしょう。

9時過ぎ、フェリー波之上は青空が広がる徳之島・亀徳新港に到着しました。
.
今回はここまで。本日もありがとうございました。
★続きはこちら★
コメント