都市に人口が集中する仕組みと仕事~地方移住の課題は仕事なのか|観光アイデア教科書 vol.12

観光アイデアノート

中山間地域の人口減少や高齢化については、長きにわたって様々な取り組みが行われています。そこで今回は、地方創生や田舎の活性化を進める上で「本当に必要なこと」を考えます。

※ この取り組みは地方創生☆アイデアコンテスト2021で中国経済産業局局長賞を受賞しました。

★参考:2020年の受賞内容は こちら

都市に人口が集中する仕組みと仕事

地方における人口減少・高齢化に対する取り組みは、人口が集中している都市から移住・定住促進が中心でした。最近では「関係人口」という、都市に住みながら地方と関わるという方法も実践されています。

そもそも「都市」はどのようにして興るのでしょうか。日本では基本的に自給自足生活が出来ません。明治政府による地租改正(1873年)以降、貨幣による納税が求められ、人々は現金収入が必要となりました。

■ 参考:八丈島と納税の歴史

あなたが絶品の魚が獲れる無人島で暮らしていると仮定します。絶品の魚をどれだけ獲ったとしても、無人島内には買ってくれる人がいません。住んでいる人がいたとしても、皆さん自分たちでその魚を獲って食べていたら売れません。つまり、モノを売るのに必要なのは、美味しさや質よりも買ってくれる人がいるということです。

物流の仕組みやインターネットがない時代は、魚を売って収入を得るため、無人島から人がいる対岸へ移動する必要がありました。こうして人がいる場所には、モノとそれを売る人が集まるようになります。そこからさらに、モノを売るお店や工場等も集まり、どんどん便利な都市になっていくのです。

働く場所(雇用)があって便利な街には、さらに人が集まるようになります。その結果が都市への人口集中です。実際、2020年の国勢調査の結果を見ると、もともと人口が多い都市で人口増加数が多くなっていることが分かります。

今後も東京への一極集中は続く見通しです。最近は若い世代を中心に地方移住への関心が高まっていると言われていますが、関心が高まっていると言われる割に、実際に都会から地方へ移住する人はまだまだレアです。

■ 参考:沖縄に移住した感想

その理由として「仕事への不安」が大きいことが、様々な調査結果から分かっています。繰り返しになりますが、人がいるところには様々な仕事があり、特に東京は仕事(求人)の数・種類とも多いです。私も大学時代、都内の派遣で様々なバイトを経験しました。

ただ、有効求人倍率をみると、地方にも仕事(求人)はあり、むしろ人手が不足している場所も多いことが分かります。つまり、地方(田舎)にも仕事はあるのに、移住の不安材料が仕事になっているという矛盾が起きているのです。

もちろん地方に仕事があるといっても、都会に比べて求人の数や種類が少なかったり、給与低かったりということは調べなくても明らか。多くの人にとって、「仕事への不安」が地方への興味を上回っている状態と言えるでしょう。

会社に頼らずモノを売ることが出来る

この不安は「仕事」というよりも、あくまで地方の会社が出している求人情報に対する不安であると考えられます。なぜなら、会社に属して働くことだけが「仕事」ではないからです。

インターネットがない時代、現金収入を得るためには、人がいる場所でモノを売る必要がありました。店舗に商品を持っていく手間が増えるだけでなく、持っていく場所も戦略を練らなければ売れません。そもそもお店の棚に商品を並べてもらうための事前の交渉なども必要です。

しかし今は電波さえあれば、無人島に住んでいても、島で獲れる絶品の魚を世界中に売ることが出来て、現金収入を得ることが出来ます。 なお、ネットでモノを売ることは誰でも出来ますが、出品したものを消費者に買ってもらうためには、何らかの形で信用が必要です。「絶品の魚」として販売しても、その情報が本当なのか、消費者に信じてもらえなければ売れません。

消費者に商品を信用してもらうための方法が、これまでは企業ブランドを利用することでした。最近はSNSなどの情報発信です。モノが出来る過程や生産の様子など、こまめに情報を届けることで、フォロワーが増え、そのフォロワー数が信用に繋がります。

これは個人でも出来ることです。山口県周防大島町と橋で繋がった「沖家室島」で獲れるひじきがあります。インターネットを使ったEC販売が中心ですが、テレビやネットで話題になり、注目を集めています。SNSなどで生産過程を公開することで、いざ販売時期となれば、全国から島のひじきを購入する人たちがいるのです。

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今言われている「地方・田舎の仕事」は、あくまで「会社の求人情報」であって、会社に頼らずモノを売って稼ぐことも立派な仕事です。そう考えると、地方・田舎の仕事の幅は広がります。

地方移住の課題は仕事ではない

しかし、こうしたことをいくら語っても、なかなか人は動かないでしょう。私自身、会社に属しており、「個人でモノを売れ」と言われても、すぐには無理です。何をどこに売ればいいかも分かりません。

地方に関心があっても、移住にまで至らない理由の核心は恐らくここです。不安材料とされる「仕事」はあるとしても、どうすればいいか分からず、本当に地方や田舎で生活していけるのかが、皆さん不安なのです。その感覚がアンケートの選択肢になく、言語化も難しいので、分かりやすい「仕事」が不安要素として挙げられていると考えられます。

政策を作っている偉い方たちの多くは、実際に都会から地方に移住(Iターン)したことがないので、こうした感覚をいまいち掴みにくいはず。若くして都会から地方へ移住する人はまだまだレアな存在です。地方の若い人も都会へ出てしまいます。そのため、今の時代の若い人が地方や田舎で過ごしたらどのような人生が待っているのか、非常に見えにくくなっています。

いわば、仕事よりも生き方のロールモデル(=夢や目標の幅)が少ない状態。地元でやりたいことがないから、とりあえず都会に出るというのは、まさにこの状態から発生する動きです。ということで、地方創生のアイデアとして必要なことは、「地方(田舎)での生き方・暮らし方を知る」ということ!

日本は人口が減少していると言われがちですが、長いスパンで見ると、人口は「元に戻る」だけ。人口が元に戻るのであれば、今後参考にすべきなのは人口が少なかった時代の生き方・暮らし方です。

日本初の株式会社が出来たのは明治初期。日本の会社の歴史は150年余で、終身雇用も戦後に普及した制度です。もともと日本人は多くが個人事業主で、複数の生業を掛け合わせて生活をしていました。最近の日本人は海外に比べ自営業選好度が低く、会社に入ることが当たり前になっているので、地方の仕事も「求人情報」ばかりで、いい仕事がないと言われがちです。

これからの日本では、働き方や生き方も「個人事業主(会社に頼らない人)」という選択肢が必要です。日本の田舎は元気な高齢の方が多く、会社員引退後に個人事業主として働いていて、税金を納めている方が多くいます。先ほど「ひじき」をご紹介した山口県の周防大島町は、人口1万人以上の市町村で高齢化率が最も高い町です(2015年)。島の就業形態を見ると、やはり個人や家族で事業を営んでいる人が多いことが分かります(かつ一次産業従事者が多い)。

心理面の整備が不十分

多くの人が知りたいのは「じゃあどうすればいいの?」「本当に生活していけるの?」という部分です。

これまで各地で様々な移住・定住政策が行われ、仕事(会社の求人)や子育て、家など、生活をする上での環境面の整備は行われてきました。しかし、ここまで紹介してきたような、移住者希望者が持つ本当の不安(心理面)に対する対策が行われている事例はほとんどありません。また、こうした心理面での不安は、移住前だけでなく移住後にも付きまとうものです。

行政の方は地元出身が多いので、事前に移住者や移住希望者の不安を察知して、対策を打つのは難しと思います。心理面の対策として、よくあるのは移住者へのインタビュー記事です。そこには大抵「知り合いに相談して…」「とんとん拍子で…」といったようなフレーズが登場します。

移住希望者としては、『どうやってその知り合いと出会ったのか』『とんとん拍子って、なんでそんな風に話し進むのか?』『で、いくらかかったの?』などの、ひとつずつ詳細が知りたいの(はず)です。少なくとも私はそうです。逆にそうしたインタビュー記事を読んで、「この人は運がいいからだ」「自分にはコネがないから無理だ」と、諦めてしまう人も一定数いるはずです。

田舎チャレンジャーラボが解決する課題

「生き方のロールモデルがない」「不安」というような課題を解決する、ひとつの方法がオンライン上のコミュニティです。

田舎チャレンジャーラボ】は、全国に点在するメンバーが、お互いの地方(田舎)暮らしの状況を共有するオンラインコミュニティ。オンラインなので、「不安」なことはいつでもメンバーへ気軽に相談することが出来ます。また、様々な生き方のモデルを垣間見ることが出来る場でもあります。

田舎チャレンジャーラボを立ち上げたのは、周防大島でひじき漁を営むさかえる氏。生まれも育ちも神奈川県で、大手銀行員からひじき漁師へ転身した経歴の持ち主です。

日々のやりとりの中で、今メンバーがどういう状況であるかを知ることが出来ます。SNSとは異なり、やりとりは会員のメンバーしか見ることが出来ないので、その内容も超リアル。移住までの相談だけでなく、移住後にも田舎暮らしや人生のお悩みを共有することが出来る場となっています。

また、個人事業主のメンバーも多いので、メンバー間でスキルを共有して、仕事が発生することもあります。

まとめ

地方(田舎)にも仕事はあるにも関わらず、仕事が不安で移住しない人が多いという矛盾が起きているのは、本当の課題が「仕事」以外の部分にあることが原因として考えられます。

仕事への不安は「求人情報」への不安であり、個人事業主など、会社に頼らない形での仕事もあります。『で、どうすればいいの?』『本当に生きていけるの(生活できる=仕事あるの)』という、地方移住に対する漠然とした不安に対する対策が、地方創生や田舎の活性化を進める上で「本当に必要なこと」です。

今はオンラインで、全国の地方や田舎で暮らす先輩移住者を参考にしたり、迷ったときに相談することが出来ます。その一例として、実際に【田舎チャレンジャーラボ】というコミュニティがすでに存在し、本当に必要とされる地方創生へのチャレンジが行われています。

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