初日の出を地理的視点から解説!納沙布岬よりも早い場所とは|観光アイデア教科書 Vol.22

観光アイデアノート

2022年4月から、高校の授業で「地理」が必修科目となりました。

私は、大学で地理学を専攻していたことに加え、旅行という名のフィールドワークも重ねており、地理学の学び方や面白さを理解しているつもりです。

ということで、今回から定期的に【旅の思い出×地理を学ぶ】記事をお届けします。

朝日にいちばん近い街・根室とは

観光で地域を活性化したい地域は、その地域ならではの地理的な特徴から、新たな観光資源を見出すことが出来るかもしれません。

例えば、北海道根室市は、【朝日にいちばん近い街】というキャッチコピーで、観光客誘致を行っています。

なぜ根室市が朝日に一番近いと言えるのでしょうか?

Wikipediaによると、「朝日」とは朝に昇る太陽のこと。

そして、朝に昇る太陽は、東の方角から顔を出します。

根室市には、一般人が行くことの出来る日本最東端の地・納沙布岬があります。

そのため根室市は、朝日に一番近い街と言われているのです。

2021年元日の早朝、私は根室市・納沙布岬を訪れていました

目的は、日本で一番早い初日の出を見るため。

写真の通り、極寒にも関わらず、納沙布岬は多くの人で賑わっていました。

そしてご来光。

恐らく、この場にいた多くの人が、私と同様に「これが日本一早い初日の出か」と、感慨深く太陽を眺めていたと思います。

ただ、納沙布岬(根室市)はあくまで、朝日に一番近い街であり、「朝日が早い」とは言っていないのです。

日の出の仕組み

そして実際、日本一早く初日の出を見ることが出来る場所は、納沙布岬ではありません。

その場所をご紹介する前に、そもそも私はなぜ、納沙布岬で日本一早い初日の出を見ることが出来ると、勘違いしていたのでしょうか。

例えば、地面に置いたサッカーボールに、真上から光を当てると、その光が当たるのは、ボールの上半分だけです。

それと地球も同じで、太陽の光が当たるのは、太陽側の半分だけ。太陽の光が当たらない半分側は夜となります。

ただ、地面に置いたサッカーボールと地球が異なるのは、回転しているかどうかです。

地球は「地軸」という軸を中心に、1日1回転(自転)しています。

地球に横線(緯線)を書いて、その線上にA、B、C、D、Eの点を入れて回転させます。そうすると、Aから順番に太陽の光が当たり、正午を超えて、夜へと向かいます。

これが日の出と日没の仕組みです。

ちなみにこの時、A、B、C、D、Eは「同じ〈緯度〉に位置する」といい、最も長くなる緯線のことを「赤道」といいます。

地球は赤道を境に「北半球」「南半球」と分けられ、赤道が「緯度0度」、北極は「北緯180度」、南極は「南緯180度」と設定されています。

そして、地球は、北極から見ると半時計回りに、南極から見ると時計周りに、自転していることも重要なポイント。

ちなみに、日本は北半球に位置しているため、「地球は反時計回りに自転している」と言われる場合が多いです。

今度は地球に縦線を書いて、A、F、G、H、Iの点を入れて回転させます。

そうすると、この5点は、同時に日の出を迎え、正午を超えた後、日没となります。

ちなみにこの時、A、F、G、H、Iは「同じ〈経度〉に位置する」といい、経度0度線はロンドンを通過しています。

日本は点Hの位置に北海道、点Bの位置に沖縄というような位置関係です。

そのため私は、日本で一番早い初日の出は、日本で最も東に位置する、納沙布岬から見ることが出来ると考えたのでした。

東ほど日の出の時間が早いわけではない

しかし、私の考えには、重要な要素が2つ抜け落ちていました。

ポイント1 地軸が傾いている

ひとつは「地軸が傾いている」ことです。

ここまで、地球は太陽と平行である前提で話を進めてきました。

しかし実際は、地球の回転軸となっている地軸が、23.4度傾いているのです。

地軸が傾いていても、地球が球形であり、太陽の光が当たるのは、地球の半分側だけであることに変わりはありません。

つまり、同じ経度(縦の線)に位置していても、緯度(横の場所)が異なると、日の出のタイミングが異なるのです。

そして、イラストを見ると、北極へ近づくほど、日の出の時間は早くなることが伺えます。

それならば、なおさら、北海道の日の出の時間が早くなるはずです。

ポイント2 地球が公転している

ここで考慮しなくてはならないのが、もうひとつの要素、「地球が公転している」ことです。

地球は自転しながら、太陽の周囲を1年かけて1周公転)しています。

そのため、太陽と地球の位置関係は、時期によって異なるのです。

そして、この公転の向きも、地球の自転と同じで、北極から見ると半時計回りに、南極から見ると時計周りとなっています。

ここまでのイラストは全て、地球が左・太陽が右にあることが前提となっていますが、これは、北半球(日本)の夏における、太陽と地球の位置関係です。

地軸が傾いている影響で、夏の北極は24時間ずっと昼の状態で、これを「白夜」といいます。

一方南極は、1日の中で昼の線を超えることがなく、24時間ずっと夜の状態が続く「極夜」となります。

北極と南極の違いからも分かりますが、北半球は南半球よりも昼の時間が長くなる、つまり、太陽の影響を受ける時間が長くなるため、気温が上がるのです。

こちらは、夏至における、日本各地の日の出の時刻。

経度の数字が大きいほど、東に位置することを意味します。

表の5カ所では、小笠原が最も東に位置することとなりますが、日の出の時間は札幌の方が早いです。

その理由はやはり、地軸が傾いているからです。

東に位置しているからといって、必ずしも日の出の時間が早いわけではないのです。

冬の地球と太陽の位置関係

地球が太陽の周りを1年かけて回っている(公転している)ことから、日本(北半球)の季節はこのようになります。

初日の出を考えるためには、1月1日、つまり、冬の太陽と地球の位置関係を見る必要があります。

夏とは逆で、北極が「極夜」、南極が「白夜」となり、南半球に比べ、北半球の昼の時間が短くなっている様子が伺えます。

しかし、このイラストで分かるのは日没の様子。

札幌→仙台→東京→小笠原→鹿児島→那覇の順に、昼から夜へ移行します。

今回知りたいのは、【日本で一番初日の出が早い場所】です。

冬至の時期、表の6地点で最も早く日の出を迎えるのは小笠原。その次は東京となっています。

これは一体なぜか。そして、どのようにすれば、冬の日の出の様子が分かるでしょうか。

ここで少し、発想の転換が必要です。

広い宇宙では、様々な角度から、地球や太陽を見ることが出来ます。

ここまでは、Aの向きから地球と太陽を見てきましたが、Bの向きからは、どのように見えるでしょうか。

地軸の傾きの向きが逆になりました。

そして、地球の自転と公転を考慮すると、日本の季節も分かります。

北半球(日本)の冬における、地球と太陽の位置関係はこの通り。

日本地図を見ると、小笠原が最も早く、続いて東京、仙台、札幌の順に日の出を迎えることが分かります。

ただし、これは地球が太陽の真横にある、冬至の時の話。

元日は、冬至の時から少し地球が動いている(公転している)ので、各地の日の出の時刻も、冬至の時とは異なります。

元日の太陽と日本の位置関係を示すとこうなります。

確かに、日本最東端の地・納沙布岬よりも、千葉県・銚子の方が早く日の出を迎えています。

そして、それよりも早いのが小笠原諸島です。

日本で一番早く初日の出が見られる場所

では結局、日本で一番早く、初日の出を見ることが出来る場所はどこでしょうか。

緯度と経度だけでなく、同じ地点でも、標高が高いほど、早く日の出を見ることが出来ます

国立天文台の記事によると、北海道・本州・四国・九州で一番早く初日の出を見られるのは【富士山の山頂】で、日の出時刻は午前6時42分と紹介されています。

しかし、冬の富士山に登ることは出来ません。

そして、富士山山頂の初日の出が6時42分であるのに対し、小笠原諸島・父島の初日の出は6時20分(2022年)と、小笠原の方が早いのです。

先ほどご紹介した日本地図の範囲を少し広げてみると、日本の領土で、最も早く初日の出を迎えるのは、日本最東端の地・南鳥島であることが分かり、その時刻は5時27分。

しかし、富士山の山頂と同様、南鳥島も一般人が行くことの出来る場所ではありません。

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そんなわけで、私たちが旅行で行くことの出来る、日本で最も早い初日の出スポットは、小笠原諸島・母島となります。

さらに母島には、小笠原諸島最高峰、標高462.6mの「乳房山」があるので、この山頂から見る朝日が、日本で一番早い初日の出ということになるでしょう。

国立天文台のホームページでも、確かに母島の初日の出時刻が、「人が居住している場所で一番早い」と紹介されています。

★参考:母島へのアクセス★

地球は公転しているので、夏をはじめ、時期によっては納沙布岬が、日本で一番早く日の出を迎えます

それにしても、根室市は「朝日に一番近い街」という、絶妙なキャッチコピーを選んだなと(笑)

このように、地理的視点から地域資源を磨くことで、観光の活性につなげることも出来るのです。

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今回はここまで。本日もありがとうございました。

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