全国各地で地域活性化の様々な取り組みが行われています。しかし、「集客」がうまくいかず、頓挫してしまう取り組みも多いのが実情です。今回は『沖縄美ら海水族館』を分析することで、集客についての知見を得たいと思います。
日本一来場者数が多い水族館
2018年度、沖縄県の入域観光客数が初めて1000万人を超えました。多くの観光客が訪れる沖縄で、特に人気のスポットが「沖縄美ら海水族館」です。沖縄を訪れたことがない人でも、その名前は聞いたことがあるかもしれません。
内閣府沖縄総合事務局沖縄記念公園事務所の発表情報によると、沖縄の観光客数が1000万人を超えた2018年度、美ら海水族館の来場者数は約372万人。この数字は全国にある水族館の中でトップで、沖縄旅行者の3人に1人は美ら海水族館を訪れる人気ぶりです。
令和2年度(2020年)6月はコロナ禍で全国的に県を跨ぐ移動が自粛。団体旅行もゼロになりましたが、美ら海水族館には3万6千人が訪れています。美ら海水族館の来場者数について考えるうえで、重要なポイントは大きく2つです。
美ら海水族館にはリピーターが多い?
1つめは【沖縄旅行者にはリピーターが多い】こと。
「美ら海水族館にリピーターが多い」というデータを見つけることは出来ませんでしたが、沖縄県の資料によると、沖縄を訪れる旅行者は8割以上がリピーターとなっています。
もし初めて沖縄を訪れる人たち(1000万人のうちの2割)が、全員美ら海水族館を訪れていたとしても、100万人以上のリピーター(沖縄県民を含む)が足を運んでいるのです。
アクセスが悪い
ポイントの2つめは【アクセスが悪い】こと。
水族館.comというサイトが出している『水族館の利用者数ランキング2019』は以下の通り
- 1位 美ら海水族館
- 2位 海遊館(大阪)
- 3位 名古屋港水族館(愛知)
- 4位~8位 東京・神奈川の水族館
- 9位 大洗水族館(茨城)
- 10位 須磨水族館(兵庫)
来場者数が多い水族館は大都市圏に隣接している場合がほとんどです。9位にランクインしている大洗水族館は、茨城県の観光客動態調査を見ても、首都圏に住んでいる人が休日にドライブがてら出かける目的地になっていることが考えられます。
東京駅から大洗水族館への車でのアクセスをみると、那覇空港から美ら海水族館へ行くのと同じくらいの距離感です。
沖縄旅行の主な交通手段は車(レンタカー)・高速バス・路線バス・タクシー。例えば、レンタカーを借りて美ら海水族館へ行く場合、那覇空港からは高速道路を使っても1時間半以上かかります。もちろん那覇空港までは飛行機に乗らなければなりません。
地理的には不利な条件であるにも関わらず、いかにして多くの人を呼び込むことに成功しているのでしょうか。人を呼び込むにあたって、「場所が悪いから」と諦めてしまっている地域も多いはず。美ら海水族館に人々が足を運ぶ理由を考察すると、集客の課題に対するヒントが得られるかもしれません。
水族館という施設の強み
光文社から出ている『沖縄美ら海水族館が日本一になった理由』という本では、前提として「水族館そのものに人を惹きつける魅力がある」と書かれています。
水族館の強みのひとつは、海の生き物がまだまだ知られていない点です。島国・日本は海への関心が高い一方で、日頃からそこに住んでいる生き物を見たり、生き物に触れたりすることはなかなか出来ません。
一方、水族館でクジラを見ることは出来ません。全てが揃っていない分、差別化をしやすいというのも水族館の特徴と言えるでしょう。例えば、愛知県にある竹島水族館では深海の生き物を揃え、それらの生き物を笑えるような手書きパネルで紹介するという見せ方で、集客に成功しているそうです。
動物園では、ライオンやゾウなど、陸上にいる生き物の多くを見ることが出来るのが一般的になっており、差別化が難しくなっています。ちなみに、見せ方にこだわり、他の動物園との差別化を図ったのが、北海道の旭山動物園です。
さらに、動物園は屋外飼育が中心であるため、集客はどうしても天候や季節に左右されがちです。生き物の匂いも感じられます(臭い)。一方で、青の世界が創り出すゆったりとした「癒しの空間」を、雨でもハイヒールで楽しむことが出来るのが水族館の強みです。
沖縄美ら海水族館が人気の理由
上でご紹介した本の中で、美ら海水族館の強みは【「世界一」「世界初」「巨大」を揃えたから】と書かれています。
「世界一」「世界初」「巨大」が揃っているのは確かに魅力的ですが、果たして何度も足を運びたくなる要素になるのでしょうか。美ら海水族館の人気者であるジンベイザメは、大阪の海遊館でも見ることが出来ます。生き物を扱っているので、毎月展示物が変わるわけでもありません。
その1. 海洋博からの歴史
新しい施設が出来たら、通常は『宣伝』をして魅力を広め、集客を行います。
1975年、沖縄で「国際海洋博覧会」が開催されました。このイベントは沖縄県の本土復帰を記念した国の事業。自分たちで宣伝をしなくても、世界中のメディアで話題にされたそうです。
■ 参考:沖縄の本土復帰について
海洋博終了後の1979年、パビリオンの1つが「国営沖縄記念公園水族館」としてオープン。2002年にリニューアルされると、「世界一」「世界初」「巨大」というコンセプトに基づく展示により、初年度で260万人以上という来場者数を記録しました。
つまり、美ら海水族館は海洋博の宣伝効果によって、「その場所に水族館があることが認知されていた」という点がポイントです。地域活性化の場合、そもそもその土地の知名度がゼロで、どんなに活性化の取り組みをしても、誰にも見てもらえません。
昔からある有名な施設が「世界一」「世界初」「巨大」を揃えてリニューアルされたとなると、初めて沖縄に訪れる人はもちろん、リピーターの人も「また行ってみよう」となるわけです。
経営資源の強みと弱みを判別するためのフレームワークであるVRIO分析のひとつに「模倣困難性」という項目があります。模倣が困難なパターン(参考:ビジネスの教科書)として、美ら海水族館は「経路依存性(海洋博の開催)」という点から、他の水族館や商業施設には無い強みを持っているのです。
その2. 強い観光コンテンツが少ない
突然ですが『沖縄』と言われたら、どんなイメージを頭に思い浮かべますか。
恐らく「海の景色」を思い浮かべる人が多いでしょう。
続いて『北海道』を思い浮かべてください。「グルメ」「自然」「雪」「温泉」などに加えて、「函館」「小樽」「十勝」などの地名も出てきませんか?
『京都』だったら「寺社・仏閣」のイメージがあり、「金閣寺」「清水寺」のように、具体的なお寺の名前もいくつか出てくると思います。
ここで何が言いたいのかというと、沖縄は人気観光地と言われている割に、「これ」という強いコンテンツが少ないのです。「海」はありますが、京都の寺社・仏閣と違って、各地にあるビーチの名前や、各ビーチの特色もそれほど知られていません。
海の楽しみ方は案外難しいものです。綺麗な海が見えることによる感動は一瞬。ビーチでのんびり過ごしていても暑く、割とすぐに飽きてしまいます。シュノーケルなどの「マリンレジャー」もありますが、美ら海水族館へ行くと、天候を問わず老若男女が沖縄の海を楽しむことが出来るのです。
■ 参考:旅行者が「沖縄旅行」に求めていること
「美ら海水族館のついでに」が持つ勝算
平成30年度観光統計実態調査によると、旅行者の約3割が美ら海水族館がある本部半島へ足を運んでいますが、本部半島を含む沖縄本島の北部には、旅行雑誌に特集されるようなコンテンツが少ないので、美ら海水族館の存在が特に目立ちます。
沖縄観光について調べても、同じような情報しか出てこないため「とりあえず美ら海水族館」のように、旅行者の行動がワンパターンになっていることも考えられます。言われてみれば「あぁ~」となる施設や場所はあると思いますが、沖縄旅行をイメージした時、「パッ」と旅行者の頭に浮かぶコンテンツでなければ行き先には選ばれません。
美ら海水族館から車で約40分、本部半島と橋で繋がっている古宇利島も、最近では多くの観光客が訪れる定番スポットになっています。古宇利島の特徴は以下の通り。
- 海を渡る古宇利大橋からの景色が綺麗
- 別名「恋島」と呼ばれ、ハートロックもある
1周10分程で周れる小さな島なのでこんなもんですが、「嵐が出演しているJALのCM」に使われたことで、一躍有名になりました。
「美ら海水族館のついで」に行く場所を探すとき、近くにある古宇利島が「嵐のCMの場所か!」と分かれば、とりあえず行ってみたくなるものです。
こうした沖縄観光の状況をうまく利用したのが、美ら海水族館のそばに新しく建設されるテーマパーク「JUNGLIA」。工事の前から「沖縄にUSJが出来る」という分かりやすいキャッチコピーを使用し、認知度を高めています。
完成すれば「沖縄にUSJが出来たらしい」ということで、話題になるのは間違いないでしょう。ちなみに「沖縄のテーマパークといえば…」と聞かれたときに、思い浮かぶ施設はありますか。
一応『おきなわワールド』や『アメリカンビレッジ』といった施設はありますが、いずれも「沖縄らしい雰囲気」を楽しめる場所であり、 沖縄に来ているのに「沖縄らしい雰囲気」を楽しめるというのは 、コンセプトとして正直微妙です。
「オランダの雰囲気を味わうことが出来る場所」としてオープンした長崎のハウステンボスも、本場オランダへ手軽に行けてしまう時代になったため、その魅力が失われたと言われています。
沖縄に出来るUSJはきっと、全く新しい世界観が展開されるはず。ここで重要になるのはやはり立地です。美ら海水族館のそばに位置することで、古宇利島と同じような人の動きが生まれると考えられます。
一見すると、那覇空港に近い方が集客には適した立地に思えます。しかし「美ら海水族館のついで」の観光コンテンツが少ない北部(本部半島)は、空港から車で2時間かかっても、十分な勝算があるのです。
まとめ
今回は『沖縄美ら海水族館』に多くの観光客が訪れる理由を分析しました。その理由は主に以下の3点です。
- 沖縄の海を誰でも、いつでも体験することが出来る
- 海洋博をきっかけに40年以上の歴史がある
- 沖縄には旅行者の頭にパッと浮かぶ観光コンテンツが少ない
沖縄の魅力は「海」以外にもたくさんあります。沖縄の観光コンテンツは「少ない」というよりも「知られていない」という方が正しいかもしれません。
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