日本版アドベンチャーツーリズムの事例 テーマ旅・屋久島・小笠原|観光アイデア教科書 Vol.6

観光アイデアノート

最近、日本の旅行業界で、頻繁に聞かれるようになった「アドベンチャーツーリズム(AT)」 。2018年には、日本アドベンチャーツーリズム協議会も設立されました。

そこで今回は、アドベンチャーツーリズムの基本と、日本版アドベンチャーツーリズムの可能性を考えます。

アドベンチャーツーリズム(AT)とは

ATは、海外では以前から普及している旅行スタイルで、世界のATを取りまとめる「Adventure Travel Trade Association(ATTA)」は1990年に設立されています。

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ATTAによる、ATの定義は以下の通りです。

・Adventure Travel is a type of tourism.
→ ATはtourismのひとつの形態である

・Exploration or travel with perceived(and possibly actual)risk.
→(可能性としても)冒険や危険が伴う旅行である

・Requiring specialized skills and physical exertion.
→ 特別なスキルと身体運動を必要とする。

・Including two of the following three components: 
a physical activity, a culutual exchange or interaction and engagement with nature.
→  アクティビティ・文化交流・自然のうち、2つの要素を含んでいる

「アクティビティ」「自然」という2つの要素は、従来の「エコツーリズム」や「グリーンツーリズム」にも共通することです。

日本アドベンチャーツーリズム協議会では、以下のような図を用いて「アドベンチャーツーリズム」「エコツーリズム」「グリーンツーリズム」の違いを解説しています。

大きな違いはATがもたらす経済効果です。

地域経済に1万米ドルをもたらすために必要な旅行者数は、クルーズ旅行が100人だとすると、AT旅行者は4人とされています。

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また、ATでは「ガイド」の果たす役割が大きいといわれています。

ツアーに同行するガイドは様々な知識が必要で、コミュニケーションで団体を引率することが求められます。

ATのイメージは、この図の通りです。

1台のバスを利用し、各地で体験を楽しみながら移動。ガイドがツアー全体の案内をする一方で、各地での案内はproviderと呼ばれる現地事業者が行うという形です。

その結果、ATは時間が長く、お金も掛かる商品となり、経済効果が大きくなるのです。

さらに、登山・トレッキングのように、アクティビティによっては、専用の道具が必要になる場合もあります。

海外で販売されているAT

では、実際に販売されているATの例を見てみましょう。

こちらはアドベンチャーツーリズムの先進地・ニュージーランドで販売されているATツアーです。

「穏やかな・静かな」を意味するマオリ語のMarinoをテーマに、ミルフォードサウンドの大自然を、2日間かけて、クルーズ・カヤック・ハイキングで体験するという内容。

料金は1099(約11万円)ドルと、日本の体験プログラムに比べてかなり高額です。

こちらは移動をしながら、各地で体験や地域の文化に親しむツアーで、移動距離が長いです。

海外におけるATの特徴

北米・欧州・南米といった主要地域では、AT市場の成長率が高く見込まれています。

日本では北海道で進んだ取り組みが行われており、特に道東では,

アイヌをテーマにしたATが展開されています。

ただし、経済産業省や国土交通省が出している資料を見ると、ATのターゲットは「インバウンド×ラグジュアリー」で、日本人旅行者向けの商品にはなっていません。

海外におけるATは客層が高学歴の富裕層、平均年齢は35歳平均14日間滞在する、という傾向があるそうです。

これは「富裕層がATを選択する」というよりも、海外のATは移動距離が長いため、旅行日数も延び、金額も上がり、結果として富裕層しか参加出来ないと考えられます。

★参考資料★

https://atjapan.org/pdf/GCC2-1report_Chapter3_2.pdf(国土交通省)

https://www.hkd.meti.go.jp/hokim/20180522/all.pdf (経済産業省)

AT=添乗員付きパッケージツアー

日本には昔から、旅行会社が販売している「添乗員付きパッケージツアー」があります。

海外のATに比べ移動の範囲が狭く、期間も短いですが、仕組みとしてはATと同じです。

1台のバスに添乗員(スルーガイド)が同行し、各地で地元の人の案内があります。

2018年4月18日 中日新聞夕刊に掲載の広告(歩くツアー、ハイキング ...

海外のATは旅行日数が長いものがほとんどです。

日本ではバカンスのような休暇制度が一般化していないこともあり、日数の長いツアーは利用者が少ないと考えられます。

ATのヒントはクラブツーリズムの「テーマ旅行」

最近の日本のパッケージツアーは、「ストーリー性」が重視され、【テーマ旅行】とも呼ばれています。

テーマ旅行を積極的に販売している旅行会社といえば、クラブツーリズムです。

クラブツーリズムのホームページには、趣味をテーマにした募集型企画旅行(パッケージツアー)が並んでいます。

こちらはクラブツーリズムで販売されているツアーのひとつ、「富士山すそ野ぐるり一周ウォーク」という商品。

そこで、こちらの富士山すそ野ぐるり一周ウォークでは、全体のコースを月別に区切ることで、日帰りツアーがシリーズ化されています。

日本人のライフスタイルに合ったAT、いわば日本版アドベンチャーツーリズムといえるかもしれません。

さらに、ツアーに同行するクラブツーリズムの添乗員は、旅程の管理だけでなく、ツアー全体のガイド的な役割も求められています。

このように、今さら海外の真似をしなくても、日本ではすでに、海外のATと同様の仕組みがあるのです。

地域主体のATが失敗する理由 答え:旅行業法

新しく日本でもAT商品を造成するというよりも、本来議論すべきは、今までは国内向けだけに販売されていたパッケージツアーを、いかに海外市場(インバウンド)へ展開するかという点です。

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しかし、ターゲットとなる欧米の旅行者としては「わざわざ遠くまで来たから、お金を使ってでも、効率よくあちこち行きたい」というのが本音です。

そのニーズに応える商品がまさに、昔から日本にあるパッケージツアーなのです。

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ATを深く理解せず、多くの地域が新しくAT商品の造成に取り組もうとしています。

しかし、ひとつの地域で、時間をかけて様々な体験をしてもらうのは、より多くのインバウンドが日本を訪れて、リピーターの割合が上ってきてからの話です。

旅行業法による制約

日本には旅行業法があるため、地域は旅行会社に対するPrividerにしかなることが出来ません。

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大手旅行会社は、日本全国で生まれたAT向けのコンテンツを、ターゲットに応じて体験や地域の組み合わせを変えたりしながら繋ぐことで、「日数の長い」「高単価」な内容のツアーを作ることが出来るようになります。

ATを取り入れたい地域は、旅行会社のツアーに組み込まれやすい商品造成が必要です。

いわゆるBtoCではなく、BtoBの戦が求められます。

屋久島と小笠原諸島の事例

まとめると、地域主体のAT商品を造成する際のポイントは以下の2点です。

  • 欧米豪の旅行者が喜ぶ内容であること
  • 造成した商品を旅行会社に売り込むこと

しかし一部で、旅行会社ではなく、地域が主体となって、日本人の個人旅行者向けに「長時間」「高単価」の商品を販売することが出来ている事例があります。

こちらも、日本版アドベンチャーツーリズムとしてご紹介します。

「体験」が旅行の目的になる

どこかに行って何かをする、ではなく、体験が旅行の目的になっている場合があります。

例えば、屋久島の縄文杉トレッキング。

屋久島には鹿児島市内からの飛行機か、高速船で渡るのが一般的です。東京や大阪など、大消費地からの直行便はないので、移動だけでお金も時間もかかります。

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縄文杉を見に行くためには早朝から丸1日歩く必要があります。さらに、ガイドツアーも1万円以上するものがほとんどです。

それでも多くの人が「縄文杉」を見るために屋久島を訪れて、ガイドツアーに参加します。屋久島に行ったついでに縄文杉を見に行く人は少ないのではないでしょうか。

屋久島では「ガイド」がひとつの産業として成り立っています。また、トレッキング装備(=ギア)のレンタルショップもあります。

★参考★

https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/3/33118/20141016192512234208/StudiesInEnvironmentalSciences_6_65.pdf

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日本人旅行者も「ここでしか出来ない体験」があれば、わざわざ休みを取って、高いお金を払って、辺鄙な場所でも足を運ぶことが考えられます。

それが丸1日の体験であれば、体験前日、そして体験当日の宿泊需要も見込めます。

★参考:屋久島旅行記★

小笠原諸島の観光消費額は沖縄のおよそ2倍

「体験のために辺鄙な場所まで旅行者が足を運ぶ」という事例として小笠原諸島があります。

小笠原諸島は、アクセス手段が片道24時間、かつ6日に1便運航される定期船に限定されていることから、5泊6日(うち船内2泊、島3泊)という旅行スタイルが一般的です。

小笠原諸島は、陸や海の多くが国立公園に指定されており、自然保護の観点から立ち入りに「ガイドの同行」が必要なエリアが多いです。

そのため、島ではガイド付きのツアーが盛んで、小笠原の観光マーケティング調査(2016)によると、島を訪れる旅行者の8割以上が何らかの体験に参加しているという調査結果が出ています。

海域でも陸域でもツアーのほとんどが「1日ツアー」または「半日ツアー」で、1日ツアーの単価は1万円前後。旅行者1人当たりの体験にかける消費額の平均を見ると、2万5千円前後で推移しています。

ツアーの種類も豊富で、旅行者は自分の嗜好に合わせて、滞在中の体験を組み合わせて過ごしています。

また、3泊を基本的に同じ宿で過ごすことから、宿での料理や島の人との交流、盛大なお見送りなどを通じて、滞在中に島の文化にも触れることが出来ます。

島民のほとんどが移住者という特殊な事情もあり、「外から視点」で地域の良さが伝えられているというのもポイントです。

小笠原の旅行者には「年休を小笠原に行くために調整した」という人や、「小笠原に行くために仕事を辞めた」という人もいます。

また、長期滞在をするリピーターも多く、繁忙期には船のチケットや宿泊予約の争奪戦が発生するほどです。

小笠原諸島では、旅行者1人当たりの観光消費額が沖縄のおよそ2倍の15万円(船代含む・2016年)となっています。

まとめ:日本版アドベンチャーツーリズムの可能性

新たなトレンドとして注目されているATですが、ATTAは1990年に設立され、日本にもパッケージツアーが昔からありました。

今後は欧米向けにパッケージツアーを販売することが求められますが、旅行業法があるので、地域主体での商品造成は困難です。

狭い地域内の、いくつかのコンテンツを組み合わせた「高単価」「高付加価値」商品がATと紹介されている例が多いですが、これはインバウンド旅行者がイメージするATとは全く異なるものです。

世界基準のATを作る場合、地域はProviderであることを自覚し、インバウンド旅行者が喜ぶような体験を、「旅行会社」に届ける必要があります。

旅行会社が行っている既存のパッケージツアー(テーマ旅行)や、旅行の目的地となるような体験が、日本人向けにも売れる、かつ地域主導で行うことが出来る、日本版アドベンチャーツーリズムといえるでしょう。

屋久島や小笠原のように、地域主体の日本人向けATが行われている場合もありますが、両地域とも「世界自然遺産」という圧倒的なブランドがあることを忘れてはいけません。

結局、何を作るにしても、「どこに売るのか」が最も重要かもしれません。

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