沖縄は雨が少ない?沖縄とハワイの気候の違いを地理学的に考察|観光アイデアノート vol.31

観光アイデアノート

2025年7月、沖縄県今帰仁村に開業したテーマパーク「ジャングリア」が大きな話題となっています。そんなテーマパークの仕掛け人である株式会社刀の森岡氏の発言で、気になるポイントがありました。それは「沖縄は雨が少ない」ということ。また、同氏は以前からよく沖縄とハワイを比較していました。そこで今回は、地理学的な視点から「沖縄は雨が少ないのか」「沖縄とハワイの気候の違い」という2点を考察します。

沖縄は雨が少ないのか

以前に当ブログで行った調査によると、沖縄へ旅行で訪れる人の多くが、リゾート感を求めていることが分かりました。

沖縄でリゾート感を演出するのに欠かせないのは、やっぱり眩しい太陽と美しい海でしょう。確かに雨が少なければ、旅行の満足度が上がり、沖縄の観光はハワイよりも魅力的なものになるかもしれません。

■参考:沖縄旅行の目的についての調査

沖縄の気候帯について

「亜熱帯海洋性気候」と紹介される沖縄ですが、ケッペンの気候区分的には「亜熱帯」という気候帯が存在しません。

  • 気候区分的にはAmまたはCfa気候
  • 年間の気温差が小さい海洋性気候
  • +@ 生物地理学的には東洋区(熱帯)

というのが、教科書的な沖縄の気候区分と言えるでしょう。これについては以前の記事でご紹介しました。

■参考:亜熱帯海洋性気候とは何か

なお、ケッペンの気候区分に基づく沖縄の気候帯を調べるにあたっては、最寒月平均気温と月別の降水量のデータが必要となります。気象庁が提供しているデータをもとに、直近5年間における沖縄各地の最寒月平均気温と月別の降水量をまとめた表が以下の通り。

ジャングリアに近い沖縄北部・名護市はCfa気候で、直近5年は年間2200mm~3200mm程度の降水量です。この降水量が多いのか少ないのかを判断するため、続いては2020年~2024年における各県庁所在地の年間降水量を調べてみました。

2020年~2024年における各県庁所在地の年間降水量の平均値を順位にすると、名護市は全国で5番目に年間降水量が多い地域となります。また、那覇市も全国6位に位置しており、これで「沖縄は雨が少ない」とは言えないでしょう。

さらに、年間の日照時間も、名護市は全国で4番目の少なさ。那覇市も6番目の少なさとなっており、雲のかかる時間が多いことが分かります。

■参考:冬の沖縄が寒い理由

しかし、これだけの情報で「沖縄は雨や曇りの日が多い」とは言えません。例えば、台風が直撃すると、1日の雨量が多くなり、天気の悪い日が続くこともあります。ということで、続いて調べるのは『年間で雨が降った日数』です。こちらも気象庁のデータで確認することが出来ます。

2020年~2024年における、各県庁所在地の降水0mm以上の日数を出して、その平均値を順位にすると、名護市が全国1位、那覇市が全国2位となりました。沖縄は雨の降る日が多いと言えるでしょう。

■参考:台風が来た日の沖縄の様子

ただ、正確には森岡氏は「沖縄は1日中雨の降っている日が少ない」と発言したようです。1日に何時間雨が降ったかについても、気象庁のデータで確認することが出来ます。今回は以下の条件で調べてみました。

  • 対象地域:名護市
  • 期間:2024年1月1日~2024年12月31日
  • 利用したデータ:各日付における10分ごとの値
  • 集計対象:1日に6時間以上連続して雨が降った日数

その結果、2024年に名護市で1日に6時間以上連続して雨が降った日数は48日。特に、雨が多いと思われがちな7月~8月に、1日6時間以上連即して雨が降ったのは1日だけでした。他の地域と比較をしなくても、これなら確かに「沖縄は1日中雨の降っている日が少ない」と言えるでしょう。

ちなみに、ジャングリア開業前後の2025年7月24日と26日は6時間以上の雨が連続して降っています。沖縄が『年間で雨が降った日数』で全国1位となるのは、雨が降ったり止んだりする日が多いから。データを確認すると、ジャングリア開業した7月25日もそのような天気です。

■参考:沖縄のカタブイについて

沖縄とハワイの気候の違い

沖縄は1日中連続して雨が降る日は少ない一方で、雨の降る日は多いことが分かりました。それでは、沖縄と比べられがちなハワイはどのような気候なのでしょうか。

気象庁(日本)のデータによると、多くの日本人観光客が訪れるホノルル(オアフ島)における、過去30年間(1991年~2020年)の降水量と平均気温の平均値はこの通り。年間の降水量は366.2mmと沖縄よりも極めて少ないことが分かります。

湿潤気候と乾燥気候の境界として用いられるのが「乾燥限界」です。年間平均温度をt、乾燥限界の降水量をrとすると、乾燥限界における降水量は、以下の計算式で求めることが出来ます。

  • 夏に乾燥している場合:r=20t
  • 冬に乾燥している場合:r=20(t+14)
  • 乾季が無い場合:r=20(t+7)

このr値よりも年間降水量が少ない場合は乾燥気候となります。そして、ホノルルは夏に乾燥しているため、以下の計算式から、乾燥帯のBS(ステップ)気候となるのです。

  • r=20×25.5℃=510.8
  • 年間の降水量=366.2mm

なお、ハワイ全体で見ると、雪が降る高山があったり、雨が多い地域があったりするなど、様々な気候帯が混在していることで知られています。

気候から考える沖縄観光の課題

ハワイ(ホノルル)が醸し出す南国リゾートの雰囲気の根底に、こうした「天気の良さ」があるとするならば、沖縄の観光とハワイの観光は全く別物と言えるかもしれません。

今回の分析から見えた沖縄観光とジャングリアの課題は以下の4点です。

屋外観光コンテンツの天候依存リスク

  • 名護市は全国的に見ても「雨が降る日数」が多く、日照時間も少ない。
  • 1日中雨が降る日は少なくても、短時間の降雨が頻発するため、屋外アトラクションは中断・制限の可能性が高い。
  • 屋外型テーマパークでは、降雨時の対応(アトラクション休止・客の退避など)が運営課題になる。

晴天リゾートの期待値とのズレ

  • 沖縄観光は「青空と海」のイメージで売られており、訪問者もそれを期待している。
  • 実態としては曇天やにわか雨が多く、体験満足度と口コミ評価に影響するリスクが高い。
  • 特にテーマパークは入園料が高額なため、天候による満足度低下が経済的クレームや再訪率低下につながりやすい。

ハワイ型の成功モデルが通用しない構造

  • ハワイ(ホノルル)は年間降水量・雨天日数ともに少なく、屋外レジャーの安定性が高い。
  • 沖縄で同じ屋外リゾート戦略を採用すると、気候条件の違いによって体験の質が不安定になる。
  • ハワイ比較での宣伝は誤解を招き、逆に不満を増幅する恐れがある。

雨天・曇天時の代替体験不足

  • 沖縄観光全体として、雨天時に屋内で楽しめる大規模施設や代替観光プランがまだ限られている。
  • 短時間降雨が多い気候特性を逆手に取った「雨でも映える観光演出」や「屋根付き屋外空間」など、天候対応型の企画が不足。
  • ジャングリア単独では対応しきれず、地域全体での受け皿整備が求められる。

要するに、沖縄北部に屋外型テーマパークを開業する場合、最大の課題は「晴天依存リスクの高さ」と「期待と現実の気候ギャップ」であり、この解消策を打たないと長期的な集客維持は難しいことでしょう。

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今回はここまで。本日もありがとうございました。

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