中学校・高校の修学旅行において、学校が重点を置く活動として常に上位に挙がる「平和学習」。広島や長崎と並び、平和学習の定番行き先となっている沖縄で、先日、船が転覆し、研修旅行中だった高校生が死傷する事故が発生しました。転覆した2隻の船は、米軍の基地移設への抗議活動に使用されていたもので、同校が実施した研修内容については、政治的活動を禁じる教育基本法に反する可能性があるとの文科省見解も示されています。

実は私自身、以前沖縄で平和学習に携わる仕事をしていました。そこで今回は、沖縄修学旅行における平和学習の実態についてご紹介します。
■参考:沖縄移住の記録

そもそも沖縄戦とは
南国の美しい海に囲まれた沖縄で、ほとんどの修学旅行生が平和学習を行う理由。それは沖縄戦の歴史があるからです。

太平洋戦争末期の1945年、沖縄は住民を巻き込んだ地上戦の舞台となり、軍人だけでなく、子どもや高齢者を含む多くの住民が命を落としました。そして、ひめゆり学徒隊に代表されるように、いまの中高生と同じ年代の少年少女までもが戦場に動員され、多くが命を落としています。
■参考:太平洋戦争の歴史


修学旅行で訪れる生徒たちにとって、「自分と同い年の子が戦っていた」という事実は、何より重く響くことでしょう。さらに戦後、沖縄はアメリカの統治下に置かれ、1972年に本土復帰を果たした今も、在日米軍基地の多くが沖縄に集中しています。沖縄修学旅行の平和学習は、こうした過去と現在の両方を学ぶプログラムとして、多くの学校の旅程に組み込まれているのです。
■参考:沖縄戦を時系列で辿る旅

修学旅行で行われる平和学習のプログラム
戦時中の武器類も、戦後には貴重な資材として再利用されたため、実は沖縄には当時の戦跡があまり残っていません。多くの学校で実施する平和学習のプログラムは、次のような内容です。
資料館の見学
修学旅行生が訪れる代表的な資料館は以下4施設です。
- 平和祈念公園・平和祈念資料館(糸満市)
- ひめゆり平和祈念資料館(糸満市)
- 佐喜眞美術館(宜野湾市)
- 対馬丸記念館(那覇市)

平和祈念公園では、記念撮影を行う学校も多く、バスガイドさんが案内してくれる場合が多いです。また、資料館内はガイドが付かないので、展示されている資料などを、生徒たちが時間内で自由に見学することが出来ます。

展示の内容が偏っているかどうかという点については、人によって意見が分かれる点です。2025年には、自民党の議員がひめゆり資料館の展示について意見し、議論を巻き起こしました。個人的には、こうした一般の観光客が入ることの出来る施設は特に問題ないと思います。GoogleMapでの評価が高い点も安心材料です。
ガマ入壕体験
「ガマ」は、沖縄戦のときに住民や日本軍が避難した自然の洞窟(鍾乳洞)のこと。

ガイドさんと共にガマの中へ入り、明かりを消して当時の状況に思いを巡らせる体験です。人工的に掘られた「壕」に入る場合もあります。ガマや壕は沖縄本島南部に点在しているため、平和祈念公園やひめゆり資料館とあわせて訪れる学校が多いです。

修学旅行で利用される代表的なガマや壕は以下の通り。
- 糸数アブチラガマ(南城市)
- チビチリガマ(読谷村)
- クラシンウジョウ(八重瀬町)
- ヌヌマチガマ(八重瀬町)
- アンディラガマ(糸満市)
- 山城本部壕(糸満市)
- 白梅の塔の壕(糸満市)
- 旧海軍司令部壕(豊見城市)
旧海軍司令部壕はガイド無しでも見学することが出来るため、個人の旅行でも気軽に訪れることが出来ます。

自然のガマや壕の内部は滑りやすく、ぬかるんでいることもあるため、泥だらけになるだけでなく、怪我の危険も伴う場所です。ただ、ヘルメットも着用せずに見学しているケースもあるのが実情です。閉鎖的な空間や暗闇によって、気分が悪くなる学生も少なくありません。ガイドさんの高齢化やガマ・壕自体の劣化により、今後大きな事故が発生する可能性が高い場所だと思います。

一方で、実際に修学旅行の下見に同行した際、先生方の会話を聞いていると、「とにかく怖い体験をさせたい」という発想でプログラムが組まれているケースが一定数あると感じました。平和学習というより、どこか【お化け屋敷】的な体験として扱われてしまっているようです。
平和講和
平和講話とは、沖縄戦を生き延びた体験者や、その語りを受け継ぐ「継承者」と呼ばれる方を講師に招き、当時の話を直接聞くプログラムです。

正直なところ、私は沖縄に修学旅行にやって来て、平和講話を聴く意味を上手く説明することが出来ません。戦争体験者本人から話を聞くことに価値はあります。ご本人の人生ではなく、当時の出来事が語られるのであれば、もう本やインターネット、映像のほうが正確です。

継承者の話は整理されていて分かりやすく、子どもには届きやすいです。普段の生活で沖縄戦の話を聞く機会はありません。語りの正確さや生々しさに課題はあっても、こうして話に触れるきっかけが用意されること自体に意味があるのだと思います。

ただ、講話で実際にどんな内容が語られるかは、聞いてみるまで分かりません。クローズドな空間で行われるため、「戦争の悲惨さ」にとどまらず、特定の政治的なメッセージが語られる可能性もあります。生放送のような場であり、旅行会社や運営側としては、何が飛び出すか分からない緊張感があるプログラムといえるでしょう。

平和講和の発展形といえるのが「ディスカッション」です。沖縄に住んでいる方々と、グループごとに意見を交わすプログラムで、講話のように一方的に聞くのではなく、こちらからも問いかけ、意見交換をすることが出来ます。受け身になりがちな平和学習の中で、生徒が自分の言葉で考えを口にする数少ない機会です

また、沖縄戦を題材に、沖縄の役者が演じる平和学習劇もあります。こちらの利点は、事前に内容を確認できることです。当日まで何が語られるか分からない講話とは違い、あらかじめ脚本に目を通し、どんなメッセージを扱うのかを把握したうえで臨むことが出来ます。
米軍基地の見学
世界一危険な基地とも言われる米軍海兵隊基地の普天間飛行場。沖縄の「基地問題」を象徴する場所ともいえるでしょう。
そんな普天間飛行場を見ることが出来るスポットが嘉数高台公園です。展望台があるだけでなく、戦時中のトーチカや慰霊碑もあるため、修学旅行生も訪れます。

確かに飛行場と住宅街が隣接しているため、誰が見ても「危険そうだな」と思うはず。ヘリの音も大きいです。ただ、住宅地に隣接する飛行場は他にもあります。有名なのは【福岡空港】ですが、普天間飛行場と福岡空港の違いを考えることが出来れば、この場所を訪れる意義はありそうです。
■参考:博多駅から福岡空港まで歩く


「道の駅かでな」には、嘉手納基地を一望できる展望台があります。普天間飛行場も嘉手納基地も、もとをたどれば沖縄戦によって米軍の土地となった場所ですが、これらは戦争の歴史を学ぶ平和学習とは、やや異なる文脈で語られがちです。

そこにあるのは、あくまで「基地問題」という、戦後の沖縄が置かれてきた構造的な問題です。経済や政治の事情も複雑に絡み合っています。これこそが、沖縄の複雑さといえるのかもしれません。
■参考:硫黄島の戦いの舞台へ

平和ガイドの実態
沖縄修学旅行の平和学習で重要な役割を果たすのが平和ガイドです。資料館の見学を除いて、多くのプログラムでガイドさん修学旅行生を案内します。

沖縄でガイドをされている方の中には、強い想いを持って活動している方が多いです。それ自体は尊いことですが、どうしても反米・反基地・反自衛隊的な主張が前面に出る方もいて、修学旅行生たちが受け取る情報が偏ってしまうこともあります。

さらに、高齢化で何を話しているか聞き取りづらい方もおり、ガイドとしての話術や、教育的な配慮という面で、必ずしも質が高いとはいえないのが実情です。「戦争は悲惨だ」というメッセージなら、子どもたちはもう十分に知っています。本来ガイドさんに期待したいのは、現場を見せたうえで、「平和とは何か」「なぜ戦争が起きるのか」を問いかけることです。

そして今回の事故では、まさにこのガイドの中立性が問われることになりました。文科省は、生徒が乗った船が抗議活動に使われていた船だと教員の多くが認識していた中で、その船による見学プログラムを組んだことなどを理由に、教育の政治的中立性に反すると判断しています。プログラムの「思想性」が、安全管理の問題と重なって表面化した形です。
沖縄で平和学習は必要?
私自身、平和学習は必要だと思っています。歴史をある程度知っているからこそ、伝えていきたいという思いもあります。

日常生活の中で、80年前の出来事を自分ごととして捉えるのは難しいものです。こういう機会がないと、子どもたちが戦争についてじっくり考えることはなかなかありません。だからこそ願うのは、ただ怖い印象を植えつけるだけの「戦争学習」ではなく、戦争についてしっかりと考えるきっかけになる「平和学習」であってほしいということです。

なお、こうした修学旅行生向けのプログラムやモデルコースは、沖縄観光コンベンションビューローが運営する「おきなわ修学旅行ナビ」でも公開されています。学校や旅行会社が行程を検討する際の参考になるでしょう。
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今回はここまで。本日もありがとうございました。
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