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今回は「沖縄コーヒー」その3をお届けします。
★前回の記事は こちら ★
沖縄のコーヒー農家に密着
コーヒーの露地栽培が出来る北限の地とされている日本。主に沖縄北部・徳之島(鹿児島県)・小笠原諸島で栽培が行われています。
こちらは沖縄北部、やんばるの山の中にある安里コーヒー農園。木の枝に緑色の果実が付いています。この果実の中に入っている種がコーヒー豆となるのです。
コーヒーの木々が並ぶ地面に、自然落下したと思われるコーヒーの果実(コーヒーチェリー)が落ちていました。
そして、雑草たちの中に混ざって生えている一段と艶のある緑色の葉が、落下した果実から発芽したコーヒー。水やりなどをしていないため、いわば自生している状態です。
コーヒーの栽培に適しているとされてるのが年間1800mmから2500mmの降水量と、水はけのよい土壌。安里コーヒー農園周辺はその条件を満たしているのでしょう。
コーヒーの果実に朝露が付いています。農園は山の上にあるので、海沿いよりも涼しい一方で、太陽が昇る日中は暑くなります。この寒暖差もまたコーヒーの生育に必要な条件のひとつです。
■ 参考:コーヒー栽培と地理
日本で初めてコーヒー栽培が行われた小笠原諸島でも、戦争で一時栽培が中断しましたが、自生していたコーヒーが戦後に見つかり、栽培が復活したという経緯があります。
ここから先は1杯の沖縄コーヒーが出来るまでのドキュメンタリーです。ある日、コーヒー農園の主である安里おじいに連れられてやって来たのは農園近くにある森。
生い茂る草木の中に、地面に刺さった鉄の棒を見つけました。安里おじいによると、この森には他にも人の手が入っていた痕跡があるため、恐らく「耕作放棄地」だろうとのこと。
そこで安里おじいはこの森を取得し、新たにコーヒーの森を作ることに決めたのでした。まずは森へ資材を搬入するための導線を作るためユンボを投入。
それにしても安里おじいのテクニカルなユンボ操作は圧巻です。目の前で本気の開墾が展開されていきます。
私もチェーンソーを使って、倒された大きな木々を細かくして片付ける作業をお手伝いしました。
そして作業開始から約3時間、森の中をスムーズに通ることが出来るような道が完成。
地面に直接種を蒔いてもコーヒーが芽吹く環境ですが、安里おじいはまずポットで一定の大きさまで苗を育てています。
ポットに使う土は安里おじいの手作りです。土に白いカビが付着しているのは土に栄養がある証。魚粉や麹などを混ぜているそうです。
こちらはその土を保管している小屋。写真では分かりにくいですが、土からはツンと鼻を刺す強烈な匂いの湯気が出ています。いわば「秘伝のたれ」ならぬ「秘伝の土」です。
この土をポットに詰めて、コーヒーを種から発芽させます。
こちらが発芽待ちのポットたち。最近は沖縄の道の駅でも、ポットに入ったコーヒーの苗が販売されており、お土産として買うことも出来ます。
ちなみにこちらは、土や肥料など、色々と条件を変えて発芽待ちをしている実験中の苗木たち。沖縄コーヒーの栽培技術や、美味しく飲む方法はまだまだ確立されていません。
美味しいコーヒーを目指すのはもちろんですが、通常4~5年かかるとされる収穫までの期間を早める方法も模索しているそうです。
こうして一定の大きさまで育った苗木をコーヒーの森へ植樹します。
日本の露地でコーヒーを栽培する
ポットのままでもコーヒーの苗木は大きくなり、果実も実りますが、安里コーヒーは露地栽培です。
まずは森の中に1.5mおきの目印を付けて穴を掘り、コーヒーの苗木を植えていきます。
植樹した苗木に水をかけて、地面を固めたら完成です。
苗を植え付けて、そのまま枯れてしまうことも多いようですが、写真のような5cmほどの若芽が出てくれば、地面に根付いた証。貴重な国産コーヒーの栽培が始まります。
夏は雑草の生育速度が速いため、コーヒー栽培のルーティンワークは草刈り。日中は暑いため、作業時間は朝・夕となります。
コーヒー農園の水撒きに使う水は、こちらの巨大タンクに貯水された雨水です。
雨が多い沖縄ですが、しばらく雨が降らない時には、貯水した雨水を使いコーヒーの木に水をやります。
コーヒーの木は日常的に剪定をしないと、枝先に果実が出来てしまい、重さで枝が折れてしまうこともあるそうです。枝が長いと台風の影響も受けやすくなります。
コーヒーの花と果実
こちらは春のコーヒーの木。枝にたくさんつぼみが付いており、このつぼみから白い花が咲きます。
こちらが開花していたコーヒーの花。大きさは2~3cmほど。花言葉は「一緒に休みましょう」。開花から3日ほどで枯れてしまいます。
コーヒーの花の蜜を吸っているハチを見つけました。こうした虫が受粉を助けます。安里コーヒー農園で育つ「アラビカ種」は自家稔性。同じ木や株に咲く花同士で交雑出来る性質があるそうです。
花が枯れて、受粉に成功すると果実が膨らみ始め、夏の間に縦1cmほどの大きさとなります。しかしこの時期の沖縄には、強い台風が次々とやって来るのです。
収穫までに時間がかかることに加えて、収穫時期と台風が重なることは、国産コーヒーがなかなか普及しない理由のひとつとなっています。
新たに開墾しているコーヒーの森は、自然の木々が防風林となっていますが、今あるコーヒー農園の防風林はシークワーサーの木(写真)です。
木々が植えられているのも風が避けられる谷のような場所。台風による被害を最小限に抑えるため、木の高さも低めに剪定されています。
木が小さい段階では、根元に囲いを設置。
大きくなったコーヒーの木々には支柱も設置し、風で倒れないような対策をしています。
しかし、木々に実っている果実(=コーヒー豆)に対して対策出来ないのが、露地栽培の難しさでしょう。
収穫からコーヒー豆が出来るまで
果実が黄色~赤色に熟してきたタイミングで収穫です。コーヒーの木々に実った果実を、ひとつずつ手作業で摘み取っていきます。
1本のコーヒーの木には、熟した果実と熟していない果実が混在しているため、美味しいコーヒーを作るためには、収穫に適した果実を選んで収穫しなければなりません。時間のかかる作業です。
沖縄コーヒーの収穫シーズンは11月頃から。しかし、木によってばらつきがあるそうです。その原因もはっきりと分かっておらず、沖縄のコーヒー栽培が改めて難しい取り組みであることが伺えます。
こちらが収穫したコーヒーの果実。この中から虫食いがあったり、黒ずんでしまったりしている果実を探して取り除きます。
ここで登場するのは安里おじい手作りのマシーン。続いて果実から種を取り出して、コーヒー豆として焙煎出来る状態にします。ここからの工程もまた全て手作業。コーヒーの収穫時期は、午前中に収穫をして、午後に豆を取り出すというのが1日の流れになるそうです。
この日の午前中に収穫したコーヒーの果実をマシーンに投入すると…
果実と種が分離されます。底が網状になったトレーがフィルターの役割を果たしており、種だけがさらに下へ落ちていく仕組みです。
こちらがコーヒーの果実から取り出した種。この時点で水に浮かんでいる種は捨ててしまいます。次の工程に残るのはバケツの底に沈んだものだけです。
続いて使用するのは洗濯機。果実から取り出された直後の種は、ミューシレージという粘液でヌルヌル。その後も種を水に浸しながら選別しているので、ここで一度洗濯機の脱水機能を利用するのです。
ここまで残った種は洗濯機で回しても割れません。脱水後は専用の乾燥機を使って一晩乾燥させます。
乾燥機で乾燥させた後は数日間天日干し。沖縄の太陽の日差しで、種に含まれる水分を蒸発させます。
ちなみに、こうした一連の精製処理作業を「パルプドナチュラル」、乾燥させた種(豆)を「パーチメントコーヒー」と言います。
機械を使って種に含まれる水分量を測り、一定の値に達していたら、いよいよ最後の工程です。脱穀機(お米用)に乾燥させた種を投入します。きっと脱穀機メーカーの方も、コーヒーの種の脱穀に使用されていることは知らないでしょう。
そして、脱穀機から出てきた「生豆」を焙煎すると、ようやく写真のようなコーヒー豆が完成します。
果実が実っていても、各農家さんの1日の作業量には限界があるため、沖縄コーヒーの生産量は少ないです。こうした過程を経て、選び抜かれた豆から作られたコーヒーは、まさに究極の1杯と言えるでしょう。
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今回はここまで。本日もありがとうございました。
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