勝浦市(千葉県)は本当に涼しいのか?「猛暑日が無い町」を地理学的に考察|2024 旅行記前編

千葉県

ブログをご覧いただきありがとうございます。

今回は「2024年 日帰り勝浦(千葉県)旅行記」前編をお届けします。

勝浦市(千葉県)は本当に涼しいのか?

2024年7月20日、千葉駅からJR外房線に揺られること約1時間半、勝浦駅にやって来ました。

時刻は朝8時過ぎ。今回は輪島(石川県)・高山(岐阜県)と並んで、「日本三大朝市」に数えられる勝浦の朝市を観光する日帰りの旅です。

勝浦といえば、観測史上35℃以上の猛暑日を記録したことが一度も無いことで知られています。駅には「涼風、勝浦」というポスターもあり、電車を降りた時にも「涼しさ」を感じられました。

2025年6月27日現在

Yahooで「勝浦」と検索しようとすると、朝市よりも上に「涼しい」という候補が出てきます。さらに、朝市の下に出て来る単語も「気温」です。

駅から朝市が開かれている通りまでは歩いて10分ほど。まだ朝早いということもありますが、歩いていても風が気持ちいいです。これだけ注目されていると、「勝浦が涼しい理由」は様々なメディアで紹介されており、ざっくりまとめると以下の通り。

  • 勝浦沿岸は「リアス式海岸」となっている
  • リアス式海岸は水深が深く、海底に日光が届きにくいので水温が低い
  • 南風が吹くと、日光で暖められた海面の水が押し流される
  • 海底の冷たい水が上昇する
  • 海水によって冷やされた空気(風)が陸地に届き、涼しい気候になる
  • 平地が少ないため、ヒートアイランド現象も発生しにくい

■ 参考:ヒートアイランド現象とは

年間最高気温の比較

気象庁のデータに基づき作成した、千葉県の海沿いに位置する5地点(勝浦市・鴨川市・銚子市・館山市・千葉市)の直近5年における年間最高気温を比較した表。勝浦市以外の4地点では、過去に35℃以上を記録しており、年間最高気温の平均値も、勝浦市が最も低いことが分かります。

2024年 最高気温が30℃を超えた日の日数

また、2024年7月と8月に「最高気温が30℃を超えた日の日数」も、勝浦市が最も少ないです。ちなみに、私が勝浦を訪れた7月20日の各地の気候は以下の通り。

2024年7月20日

最高気温が30℃を下回ったのは勝浦市だけだったようです。平均気温も勝浦市が最も低く、涼しい町の貫録を遺憾なく発揮していました。

「猛暑日が無い町」を地理学的に考察

勝浦市が涼しい理由を分析するにあたって、私が立てていた仮説は「黒潮」による影響です。

海上保安庁 海洋速報より

こちらは、ある日の黒潮の海流図。海流は日々変化しますが、この流れが大きく変わることはありません。つまり、勝浦市の沖合には、年間を通じて黒潮が流れているのです。この黒潮が勝浦市の気候に何らかの影響を与えているのでは?と思い、黒潮沿岸に位置する町の気温を比較してみると、意外な事実が分かりました。

■ 参考:黒潮とは何か

勝浦よりも涼しい場所はあるか

年間最高気温の比較

こちらは茨城県の太平洋沿岸部に位置する、鹿嶋市・日立市・北茨城市における年間最高気温と観測史上最高気温の比較。3都市はいずれも千葉県より緯度が高く、都市部からも離れているため、千葉県の5地点よりも涼しいかと思いましたが…

  • 3都市共に観測史上最高気温は35℃以上
  • 鹿嶋市と日立市における直近5年の年間最高気温の平均値は千葉県沿岸部と変わらない
2024年 最高気温が30℃を超えた日の日数

北茨城市における直近5年の年間最高気温の平均値は35℃を下回りますが、2024年7月と8月に「最高気温が30℃を超えた日の日数」は勝浦市よりも多く、「勝浦市の方が涼しい」といえる結果になりました。

もし、黒潮が陸地の気候に影響を与えるならば、黒潮上に浮かぶ伊豆諸島の島々も涼しいはず…ということで、江戸川臨海(東京23区)と伊豆諸島、さらに父島(小笠原諸島)における、年間最高気温と観測史上最高気温を確認した結果がこちら。

  • 東京都心(江戸川臨海)よりも、伊豆諸島と父島の方が涼しい
  • 三宅島は勝浦市と同様、これまでに35℃以上を記録したことがない
  • 三宅島の年間最高気温の平均値は勝浦市を下回る
  • 父島も35℃以上を記録したことが無く、年間最高気温の平均値は勝浦市と同じ数値

■ 参考:父島の気候について

2024年 最高気温が30℃を超えた日の日数

三宅島や父島の方が、勝浦市よりも涼しいかと思いましたが、30℃を超えた日の日数は勝浦市よりも多く、「島の方が勝浦市よりも涼しい」と言い切ることは出来なさそうです。

続いて調べてみたのは、黒潮の流軸に近い上記5地点。このうち、伊豆半島の南端に位置する石廊崎は、年間最高気温の平均値が勝浦市より低く、35℃以上を記録したこともないようです。果たして、石廊崎は勝浦市よりも涼しいのでしょうか。

2024年 最高気温が30℃を超えた日の日数

三宅島や父島と同様に、石廊崎も30℃を超えた日の日数は勝浦市よりも多く、勝浦市の方が涼しいかもしれないという結果となりました。

最後にご紹介するのは南西諸島の島々です。一般的には「南の島」と呼ばれる地域ですが、沖永良部島や沖縄本島北部の集落・奥、渡嘉敷島では、35℃以上を記録したことがありません。さらに、渡嘉敷島の年間最高気温の平均値は、今回比較した地点の中で最も低くなっています。

2024年 最高気温が30℃を超えた日の日数

ただやはり南の島々は、7月と8月の最高気温がほぼ毎日30℃以上なので、勝浦市よりも涼しいとは言えないでしょう。

沖縄・大神島にて

一方、伊豆諸島や父島、南西諸島は年間最高気温の平均値が35℃を下回っており、直近5年間で35℃以上を記録したことがあるのは大島(2020年)と八丈島(2024年)だけです。これは、気温が上がりにくく下がりにくい「海洋性の気候」によるものと考えられます。

■ 参考:海洋性の気候とは何か

海洋性の気候である可能性

ここまでの比較で、勝浦市の夏の涼しさに黒潮が影響している可能性は低いことが分かりました。続いて検討するのは、勝浦市は「海洋性の気候かどうか」という点です。

こちらは1991年から2020年における、8月の最高気温の平均値と1月の最低気温の平均値から、年間の気温差(年較差)を比べた表。やはり、伊豆諸島・父島・南西諸島といった島々は年較差が小さく、海洋性の気候であることが分かります。一方、勝浦市の年較差は島々ほど小さくはありません。どうやら、勝浦市は海洋性の気候では無さそうです。

1991年~2020年 8月の平均値

今回、勝浦駅で電車を降りた時の第一印象が「風が気持ちいい」というものだったので、8月の平均風速も比較してみました。体感温度は風速1m/sで1℃下がると言われています。しかし、勝浦市の平均風速は3.3m/sと、そこまで強くありません。さらに、「平均気温ー平均気温」を『平均体感温度』とすると、その数値は勝浦市よりも江戸川臨海(東京23区)の方が低くなります。

■ 参考:沖縄の冬が寒い理由

まとめ

ここまで地理学的な視点から「勝浦市は本当に涼しいのか」を考察してきました。

勝浦市の海

勝浦市の特徴は「涼しい」というよりも、関東平野の平地にありながら「30℃以上になる日数が少ない」ことと言えるでしょう。その背景には、黒潮や海洋性の気候、風速以外の要因があると考えられます。数日間滞在してみると、その涼しさを実感することが出来るのかもしれません。

.

今回はここまで。本日もありがとうございました。

.

コメント

タイトルとURLをコピーしました